03
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同日 朝
/結界封印都市ヒモロギ 通学路
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通学路、と言っても味気ないものである。
寮から高巫まで舗装された道が伸びるのみだ。
道中、面白いものなど何もない。
それもそのはず。何せここ結界封印都市ヒモロギは端から鬼との決戦ありきで設計された都市だ。しかも開発期間が極端に短く、今でも一部では未完成の区域や、鬼との戦いで放棄された拠点も存在する。
ごく少数の娯楽施設を除き、殺風景なのも無理はない。
『ヒミコ』
ふと、ハクからの呼びかけ。
(ん? なんだよ)
『アオのヒトが、くる』
(青の人……? 誰だそりゃ)
ハクの白い指を目で追うと、その先にいたのはルリカだった。
確かにルリカの瞳や霊気は青い。どうやらハクはその色で識別しているらしい。
「なんだ、気づかれてしまったか。不意打ちの一つでも見舞ってやりたかったのに」
「やってみろ。五倍にして返してやる」
「はっはっは」快活に笑うルリカ。「冗談だよ冗談。さ、学校へ行こうか」
「ざっけんな。アタシにつきまとうんじゃねえ」
「知ってるか神越? キミとこうして一緒にいるだけでな、私の評価はぐんぐん上がるんだぞ。〝嫌われ者の神越にまで優しい凛堂さんはなんて人格者なのだろう〟とな!」
「死ね」すかさず右の拳を打ちこむヒミコ。
「甘い」が、躱される。
「クソが……っ」
ヒミコは苛立たし気に舌打ちした。
十中八九、本気でやれば勝つのは自分だろう。
が、それは裏を返すと本気でやらねばコイツは仕留められぬのと同義。
ルリカもその点は委細承知のようで、最近ではこうしてやたらとウザ絡みしてきた。
「ほら、そろそろ人も集まってきている。私の【ぽいんと】を稼ぐために協力してくれ」
「死ね」
ヒミコは緋袴から鋭い蹴りを繰り出すもやはり避けられる。
結局、不本意ながらもルリカと並び歩く形となった。
誰もが認める優等生と不良の組み合わせ。当然、余人の目を引かぬはずがない。
ヒミコは好奇の視線がズサズサと突き刺さってくるのを感じた。
「ん……?」
高巫へ入学して早二週間。流石にそろそろ知っている顔もチラホラ出てくる。
大抵は目を合わせた途端、気まずそうに顔を背けられるだけだが……ソイツは違った。
「えーっと」
〝松〟だ。そう〝松〟である。松竹梅の三人娘。
未だ本名は知らない。知る気もない。
その〝松〟が、好奇の視線に紛れていた。
しかもどういう訳かヒミコと目が合った途端、
「う~っ!」
と低く唸り、顔を真っ赤にして去っていく。
怒っている、のだろうか?
その後も三歩に一度はチラッ、チラッとこちらへ振り返りすごい目つきで睨んでくる。
「なんだありゃ」
ヒミコは訳もわからず呟いた。
一方、ルリカは隣で〝あちゃー〟と額に手を遣り天を仰ぐ。
明らかに事情を察している者の態度だ。
「おい凛堂。どーいうことだ。なんなんだよ、アイツ」
「そんなこと言われても、なぁ……」どうにも歯切れの悪いルリカ。
「話せ。知っていることを。すべて、だ」
「……そもそもは、キミに原因があることじゃないか」
「はぁ? アタシに原因? なんの話だよ。アタシが何したってんだよ」
「いや、だってキミは……その……したんだろ」ますます言い淀むルリカ。
「だから。何をだよ」
「その……りょ……く……したんだろ」
「聞こえねーよ! もっとデカい声で喋れ!」
いい加減ヒミコは腹が立ち、往来のど真ん中も気にせず怒鳴りだす。
――これが良くなかった。
売り言葉に買い言葉、今度はルリカが大声で言い返す。
「 だから! りょ、凌辱したんだろっ! 」
道行く女学生たちが一斉に振り返った。




