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(五日後)
闘ノ月、恵ノ週、倫ノ日 早朝
/結界封印都市ヒモロギ 尾居土宿舎 食堂
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〝ええい、これでもか〟とばかりに山のような朝食が大皿に盛られていた。
見渡す限り脂質と炭水化物の塊である。見てるだけで胸やけしそうな光景だ。
これを、朝からいく。
しかもまだ終わりではない。
ヒミコは瞬く間に〝んぐっんぐっ〟と平らげると、大皿片手に列に並びまたも山盛りを作ってきやがった。
なお、これだけ食べてもヒミコの身体は実に均整の取れたそれである。
これもまた、緋ノ巫女故の特質だ。
むしろこの勢いで喰わねば痩せる一方である。
……世間一般の女に聞かれた日にゃあただでは済まない。
『ねぇ』
そこで、唐突にハクが現れた。
「ぶふぉ⁉」
ヒミコは目を剥き口にした飯を噴き出しかける。
無理もない。
〝眠いから寝る〟
ハクがそう言い残し姿を消してから、かれこれ二週間近く経っていた。
その間、いくらヒミコが呼びかけても反応はなし。
それが。今になって突然、現れたのである。
(てっきりくたばったとばかり思ってたが――)
『くたばってないよ』
「はぁ⁉」
思わず素っ頓狂な声を出すヒミコ。
じろじろと冷たい視線が飛んでくるものの――ギロリ、ヒミコが音が出そうなほど人相悪く睨めつけ返すと、すぐさま引っ込んだ。
(ど、どうなってんだ……⁉ まさかコイツ、アタシの思考を――)
『え? うん、わかるよ。ヒミコの考えてることでしょ』
(おいいっ!)
『〝おいいっ〟って言った。心の中で。あと、今はおにぎりの具のことちょっと考えてる』
どういうことだ……?
以前のハクは読心などできなかった。
だからこそヒミコは、傍目にはブツブツと独り言を呟くやべーヤツと承知しつつ、声を出して直接ハクに語りかけていたのである。
(いや、でも待てよ……〈アマテラス〉に乗ってた時は違ったな……今みたいに、思うだけで言葉を交わせてた)
それが、こうして〈アマテラス〉の外でもできるようになっている。
これはいったい……何を意味する?
『ねぇヒミコ。そんなことよりおなか空いた。たべていい?』
(食べるって……何をだよ?)
『それ』白く小さな指でヒミコの手にした握り飯を示すハク。『たべたい』
(……ほれ)
ヒミコはずいっと差し出した。ハクが食事をするなど、これまた初めてのことである。
途端、パクリ。
パクリ、パクリ、パクリ。
ハクは首だけを動かし握り飯に食いついてきた。まるで水飲み鳥さながらである。
(ん――?)
『はぁ、おいしかった』
とは言うものの、握り飯に別段変わりはない。
そのままだ。一口たりとて減っちゃいない。
(まさか……!)
嫌な予感がしつつ、ヒミコは握り飯を頬張った。
(あ、味が――)
しない。
皆無である。
紛うことなき零の味だ。
正直、超がつくほどまずい。
『ねぇ、もうひとつたべていい?』
(……好きにしろ)
ヒミコは過去、肆番隊のある任務で空腹の辛さを知っている。
爾来、出されたものは絶対に残さないよう自らに強いていた。
だから。
例え二個目の味無しおにぎりでも、しっかりと食べきる。
(……うまかったか?)
『うん』
ハクは小さく頷いた。




