08
迫り来る巨鬼の腕を薄皮一枚残して避ける。
同時に御幣で切り上げた。
しかし与えた傷は浅い。無理もなかろう。敵の指はこちらの腕、あちらの腕は自分の胴ほどに規模差があるのだ。
決定打を与えるには急所を狙わねばならない。
だが、
「左か――!」
この連携。三身があたかも一体と化して動いてるかのような練度だ。互いの短所を巧みに補い、長所を最大限に活かしている。
奇妙なことに、肆番隊で修練を積んだヒミコにとってそれはどこか親近感すら覚える立ち振る舞いだった。
(こういう戦い方をしてくるたぁな……)
既にヒミコの中で激情は沈静化していた。より強い意思――必ず倒す――で上書きされている。
鬼。得体の知れぬ敵。討たねばならぬ敵。
ヒミコにとって、確かなことはそれだけだ。
(あの時は――ただ逃げるしかなかった)
けれども今は。
違う。
もう二度と。
コイツらに背を向けない。
「なんだ――?」
急に鬼どもの連携が乱れた。理由はわからない。
何にせよ好機だ。
(とった……!)
最初に現れた大型鬼の残る角を切断する。
鬼は硝子板に火掻き棒を擦りつけたような断末魔を上げ、白き血を撒き散らし崩れた。
「お見事ね」
「……局長サマじゃねーか」
「だからもう局長ではないと言ったでしょう」
互いに神速で動く最中、ヒミコはミヅキの姿を捉える。
どうやら先の敵の乱れは彼女の介入に端を発するらしい。だが今は再び動きを同期させ、持ち直していた。
「何してんだよ。こんなとこで」
「できることを。最大限、というところかしら」
「……その手で戦えんのか?」
「無理ね。避けるだけで精一杯よ」
「おい。そんなんじゃあ時間稼ぎにしかならねーじゃねぇか」
「それでいいのよ。まさしくその時間稼ぎがしたかったのだから」
「ああ?」
「神越さん、私の合図で散開なさい。私はこっち、あなたはあっちへ………………今!」
ミヅキには何か策があるのだろうか。
ヒミコは怪訝に思いながらも一応従う。
そこへ、
「な――⁉」
入れ違いで現れる巨大な影。
新たな大型鬼か? いや違う。一目で知れる差異がある。
どこまでも生物としての特徴を色濃く残す鬼に対し――現れ出たのは明確な兵器だ。
兵器。ただし戦車ではない。戦闘機でもない。それらは所詮、緋ノ巫女の下位互換だ。
目の前にいるのは……人型。無骨で稚拙ながらも人の形を模したそれだ。
上部装甲は白で塗られ、下部は緋色で統一されている。
まるで巫女を象った人型兵器。
「ルリカ!」ミヅキがよく通る声で機体の操者に呼びかけた。「敵を分断するわよ! あなたはそちらを頼むわ!」続けざまにヒミコの方へ振り向く。「神越さん、私たちは――」
ヒミコは既に動いていた。一体は先ほど葬り、もう一体はあの兵器が抑える。ならば自分は残る一体だ。
一対一なら勝機は十分。
――というか。
物足りないくらいだった。