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闘ノ月、忠ノ週、俊ノ日 早朝
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部
医療棟 特別治療室
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「気がついたか、ミヅキ……⁉」
目を開けると、すぐそばにシマメの顔があった。
既に夜は明けている。
ミヅキは布団に横たわっていた。
身体は……まだ動かせない。
様々な医療装置が稼働しているのを見るに、医師たちが尽力してくれたのだろう。
「よかった……! ミヅキ……! 本当に、本当によかった……!」
シマメはポロポロと大粒の涙を零していた。
本当にいい友人である。
自分にはもったいないくらいだ。つくづくそう思う。
「シマ、メ……」ミヅキは掠れた声で訊く。「鬼、は……?」
「もう大丈夫だ、問題ない。ミヅキがあの鬼を討ってくれたおかげで、本部にあれ以上の被害はでなかったよ」
「よか、った……フフ、フ……こんな、深手を、負った……のは……御影坂、以来、かしら……」
「……ああ、そうだな」
「また、この腕に……助け、られたわ……」
ミヅキは己の右腕を見遣る。
既に義手は炸霊石で跡形もなく、空白だけがそこにあった。
(あれからもう六年、か……)
御影坂連続爆破事件。
連日止まらぬ政治家や官僚、その家族の組織的な暗殺に、とうとうミヅキ率いる帝國巫女局壱番隊が駆り出され――そして彼女は右腕を失った。
(あの時の私は……滅茶苦茶だったわ)
何せ己を神に等しき存在とすら思っていたほど傲慢な人間が、一夜にして不具の烙印を押されたのである。
残念ながら文明の発達に知性が追いつかぬこの国では、根深い差別と偏見が平然と存在していた。
現に、ミヅキには幼い頃からの許婚がいたのだが――事件後、その母親が病室へやってくるなり言い放った第一声がコレである。
『片輪の嫁などいらぬ』
この言葉はミヅキの自尊心、自我同一性を悉く破壊し尽くした。
(私はあの時……冗談でなく、世界の破滅を願った)
否、願うだけではない。
それを実行に移そうとすらしていた。
だが、
(ヒカルさんが、手を差し伸べてくれていなければ……)
旧姓、宇条ヒカル。
ミヅキの元・許婚だ。
〝元〟がつくのは宇条家が一方的に婚約を破棄したからである。
だから彼は――家を捨ててまで、自分と一緒になってくれた。
(私なんかの、ために……)
白状してしまえば、ミヅキはその時まで、一片たりとてヒカルに愛情など抱いていなかった。
というより、愛情とは何かすら理解していなかったのである。
何もかもを見下す以外に知らぬ当時のミヅキにとって、ヒカルは名家の札がついた装飾品に過ぎなかった。
(ヒカルさんのおかげで、私は立ち直れたのだわ……ううん、それだけじゃない)
娘を授かった。
母に捨てられた自分が――母となったのである。
ミヅキが〝人間に戻れた〟とはっきり自覚できたのはその頃からだ。
(シマメとヨウコと、本当の意味で友達になれたのもね……)
ミヅキはすべてを打ち明け謝罪した。
自分がどれだけ傲慢な人間だったかを。
自分がどれだけ恥ずべき人間だったかを。
呆れられ、見下され、絶縁されるかもしれない――そう覚悟した上で。
だが二人の反応は、ミヅキにとって意外なものだった。
ヨウコは話を聞くや否や頷き『それもアンタだ。気にすることはないさ』と受け入れてくれた。
シマメに至っては『私はすべて知っていたさ。最初からね』とお見通しだったらしい。
「ね、え……シマメ……?」しばし過去に思いを馳せていたミヅキがふと切り出した。「あなた、は……なんで、友達で……いて、くれたの……?」
「ん? 何の話だ」
「私たちの……話よ……あなたは、気づいていたのでしょう……女学生の頃から……私の……イヤな、ところに」
「ああ、そのことか」シマメは〝そんなのどうでもいい〟とばかりに肩を竦める。「人間、誰しも腹に一つや二つ秘め事はあるものさ。勿論、私にだってね。たとえあの時のミヅキが私のことをどう思っていたにせよ、私はお前やヨウコと一緒で楽しかったよ。大事なのはそれだけさ」
「シマメ……」
目頭が熱い。昔は涙なんて絶対に流さなかったのに。
いや、違う。そうじゃない。
流せなかったんだ――。
「さ、ミヅキも無事に意識を取り戻したことだし、私はそろそろ仕事に戻るとするかな」
「仕事……?」
どう見てもシマメの姿は一晩付きっ切りで自分のそばにいてくれたソレである。
「少し仮眠を取った方がいいんじゃない……?」
「そうしたいのは山々なんだが……」シマメはチラッとミヅキを見た。「ミヅキがその調子じゃ私の方で仕事を引き受けるしかなかろう? ……特に、溜まりに溜まった書類仕事をな」
「うぐっ、それは――」
シマメの顔。口だけは笑っている。
だからこそ、余計に怖かった。
「はっはっは! 冗談だよ冗談、気にするな。前にも言ったが私が好きでやってることだ。そんなことより、しっかりと休んで早く現場に復帰してくれ」
「シマメ……本当に、ごめんなさい」
流石のミヅキも申し訳ない気持ちで一杯である。
シュン、と縮こまっていた。
「だから気にするなって。それに元々――」
今日はこれから用事があるからな。
言ってシマメは病室を後にした。




