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誰よりも、強く、美しく、そして優しい母だった。
だからこそ、憧れた。
嬉しかった。一緒にいられるだけで。
幸せだった。
――でも。
あの日を境に、すべてが変わってしまった。
あの日。
一度として会ったこともなかった祖母の訃報が届き、母が新たな〝月読ノ巫女〟と化した夜。
あの夜も白き月が浮かんでいたのを覚えている。
月の光を受けた母は――若返った。
今の私とさほど変わらぬ三十路から、緋ノ巫女の最盛期とも言われる十代の後半へ。
それだけではない。
母は――いや〝月読ノ巫女〟とは悉く時間の概念に反した化物だった。
年を取らない。
のではない。
より悪質だ。さらに若返る。
それも連続した若返りではない。
二年か三年に一度ある日突然、一歳ほど若返る。
最初は気のせいかとも思った。
だが二度目で確信する。
私はとうとう母の年を追い越したのだと。
それからも母の身体は時を遡り続けた。
第二次性徴を逆行し、今では一〇歳に届くか否かの幼さである。
その間〝月読ノ巫女〟がしていたことと言えば二つだけ。
一つ、月を見ること。
二つ、〝お告げ〟を下すこと。
それだけだ。
それだけの、はずだ。
私にはそうとしか言えない。
当然だ。母が〝月読ノ巫女〟となって以来、会えることは滅多になかったのだから。
それに会ったところで――あの人は私を見てくれない。
いつも、いつまでも、月だけを見詰め続けている。
気づけば私は孤立していた。
父も家を出て、周りには誰もいなかった。
一人ぼっちだった。
だから、かもしれない――。
いつしか私は、おぞましいほどに歪んでいた。
どこまでも人を見下し、他者を道具としか思わない。思えない。
そんな人間に、なっていた。
正直に言おう。
私は十代の頃、あのシマメとヨウコにすら――一度も友情を感じたことがない。
そういうものを受け入れる回路が、心の中になかった。
純粋に、損得勘定だけで付き合っていたのである。
あんなによくしてくれた二人なのに……。
あの頃の私は一事が万事その調子だった。
傲慢さに実力が追いついていた、というのが最悪に拍車を掛けていたのかもしれない。
――だから。
やがて、報いを受けた。
私の経歴における唯一の黒星。
御影坂連続爆破事件。
辛うじて解決こそしたものの……私は代償に右腕を失った。
永遠に。




