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第三の腕が御幣と接触し、大爆発が生じた。
ミヅキが辛うじて命を拾えたのは、ほとんど奇跡に等しい。
とはいえ、最大限に人事を尽くした上で呼び寄せた奇跡だ。
ミヅキは爆発の瞬間、衝撃が達するより早く全霊気を防御に回し、どうにか受け切ったのである。
卓越した戦闘技術と判断力を有するミヅキだからこそ成し得た離れ業だ。
並の巫女ならば何が起きたかすら掴めず消し炭と化していただろう。
だがそこからがよくない。
あまりにも、よくない。
ミヅキは体内の霊気のおよそすべてを使い切ってしまった。
となれば必然〝縮空〟はおろか、霊気を纏って身を守ることすらままならない。
言い換えれば、そこらの一般人と何ら変わらぬ耐久にまで低下したのだ。
その状態で上空から落下……。
結果は言うまでもない。
致命傷こそ免れたものの、両脚の骨が砕けた。移動はおろか立ち上がることもままならない。
おそらくは肺も損傷しており、呼吸の都度、異様な痛みと苦しみが走った。
つまり、こういうことである。
――最悪の状況。
(……まいったわね)
そんな中、ミヅキが考えていたのは、
(あの装甲……崩せないわ)
あくまで戦闘のことだった。
己の負った損傷も、訪れるであろう無慈悲な結末も、すべて冷徹な意志の力で締め出している。
冷徹。
そう、それこそがミヅキの――否、かつてのミヅキの本質であった。
(あの爆発……ほとんど指向性はなかったわ……等方で、球状で……間違いなく、敵自身にも牙を剥いていた)
だというのに。
(ああもケロリとしているとはね……)
ミヅキは大の字で倒れたまま、目だけで敵の姿を捉えた。
傷一つ負ってない。カチャリ、カチャリ、と音を立て、敢えてゆっくりとした足取りでミヅキに近づいている。
(随分と……人間臭いのね)
機械の鬼は勝ち誇っていた。
禍ツ忌ノ鬼を含め、これまでの如何なる鬼にも見られぬ特徴である。
(これって――)
何かに、似ていた。
(そう……〈アマテラス〉だわ……第一の鬼の時に見せたあの暴走……)
どこまでも己の欲望に忠実。
示す方向こそ違えど、性質としては共通項で括れる。
(機械仕掛けの巫女と……機械仕掛けの鬼)
その鬼が。
ミヅキを片腕で掴み上げた。
「っ!」
殴る、蹴る、嬲る。
ミヅキの損傷部位ばかりを執拗に。
まるで箍の外れた愛撫である。
爆発は使わぬらしい。純粋に、己の肉体だけで蹂躙したいようだ。
殴られる度、巫女装束からは血飛沫が舞う。
「はぁ、はぁ……っ!」
ミヅキは。
一度とて紫の瞳を目蓋で隠さぬまま、敵を睨めつける。
そこに宿した光は怒りではない。憎しみでもない。
どこまでも冷徹な思考。
(あと一度だけなら……攻撃できるわ)
されどその機会をどう活かすべきか。
(残念だけれど、あの装甲は崩せないわ……その前提は覆らない)
――鬼はとうとうミヅキの弱点を見つけた。
胸。折れた肋骨。肺に突き刺さっている。
(ならいっそのこと……)「ぐぅっ⁉」
杭打ちのようなものだった。
鬼は拳を握り込み、折れた骨に叩きつけてくる。
一発、二発、三発。
拳が突き刺さる度、骨は肺に深く食い込み、尋常ではない激痛がミヅキを苛む。
もう、呼吸ができない。
意識が遠ざかる――。
「………。………………。………………………。」
やがて。
ミヅキの身体から力が消失した。
だらりと垂れ下がった手足。
ぐったりと俯く顔。
『カッ――』
鬼は。
『カッカッカッ――』
高嗤いを始めた。
『カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ』
おかしくて、おかしくて、堪らない。
そんな嗤いだ。
――ミヅキはその隙を見逃さない。
「……フフフ、フフ、フフフフフフフ」
大口を開けた鬼の口へ、己の右腕を突っ込んだ。
無論、そんなことをすればただでは済まない。
鋼鉄の鋭い牙でズタズタにされるだろう。
生身の腕ならば。
「……死になさい」
次の瞬間、ミヅキの右腕が――炸霊石を仕込んだ義手が爆発を起こした。




