13
夜に浮かぶ白き月がヒモロギを照らし出していた。
堅牢な防壁で囲われたツクヨミ本部。中央には月魅ノ塔が聳え立つ。
今、本部に穿たれた大穴から、機械仕掛けの鬼と、そしてミヅキが飛び出してきた。
鬼は背面から防壁に激突し、ようやく停止する。
無論、損傷など通っていない。逆に鬼を受け止めた防壁の方がピシピシと蜘蛛の巣が如く亀裂を走らせている。
(機械仕掛けの鬼……それも混じり気なしの人型……まるで禍ツ忌ノ鬼みたいに)
ミヅキは冷静に敵を観察していた。
(でも、何だか歪な身体だわ……)
印象としては、大きさの違う二つの人形の手足を挿げ替えたかのようである。
小柄な胴体に反して長い手足。
平衡が取れているとは言えない。
何故にあのような姿形をしているのだろう。
(起き上がった……!)
鬼が立つ。
そのままこちらへ攻撃――かと思いきや、
(何を……しているの?)
鬼が取ったのは予想外な行動だった。
しげしげと、己の手足を見詰めている。
手を握り、開き、具合を確かめていた。
そして唐突な、
『カッカッカッカッカッカッカッカッカッ』
嗤い。
声を伴わぬ高嗤い。
大口を開いたまま顎だけがカクカクと動き、内部の部品が干渉して音が生じる。
次の瞬間、
「くっ⁉」
鬼はミヅキの眼前に迫っていた。
(そんな……! まさか〝縮空〟⁉)
――否、違う。
専門家のミヅキだからこそ、確信できた。
その証拠に、少し遅れてから爆音が届く。
(足からも……爆発を起こせるのだわ! それを推進力にしている!)
ミヅキは間一髪で敵の攻撃を躱し、縮空で距離を取った。
だが敵はすぐさまこちらに振り向き、第二の爆発を起こして追い打ちを仕掛ける。
どうやら鬼独特のあの空白の眼窩で、ミヅキの霊気を直に感じ取っているらしい。
(冗談じゃないわ……! 全身が火薬庫みたいなものじゃない……! これでは迂闊に近寄れもしないわ)
手か足で触れたものを爆発させる。
それが敵の力だ。
様子見などまずできない。隙あらば爆発に巻き込まれる。
かと言ってこのまま逃げ続けるのも土台無理な話。
全盛期ならいざ知らず、今のミヅキでは縮空を使える回数に限りがあるからだ。
この速さで戦闘を継続されれば、こちらの霊気が底をつくのが先だろう。
(とても増援まで持たないわ……ううん、そもそも増援が間に合ったとしても生身の巫女じゃよほどの数が揃わないと厳しいかも……あの鬼を確実に始末できるのは〈アマテラス〉か〈ウズメ〉だけだわ……)
しかし、二機は共に大型鬼への対処で出ている。合流はまず見込めない。
(となると……やっぱり何としても私が食い止める。それが最善手ね)
ミヅキは腹を決め、縮空で空へ跳ぶ。
長期戦が不利な以上、狙うは短期決着だ。
一瞬で、勝負をつける。
『カカカカカカカッ』
鬼が喰いついた。爆発で上空のミヅキを追う。
〝もう貴様に逃げ場はない〟まるでそう嘲笑うかのようにカツカツと喉を鳴らしていた。
「……いいえ、あなたの方よ」
もう逃げ場がないのは――次の瞬間、ミヅキは縮空を連続で使い、鬼の背後を取る。
「ここにはないでしょう、爆発させられるモノが」
すべてはミヅキの目論見通り。
今、ここは間違いなく安全地帯だ。
敵はこれ以上に宙を動けず、かつ人体の構造上、背後への攻撃は叶わぬのだから。
そう確信し、ミヅキは御幣で敵に斬り掛かる――。
「え」
だが。
彼女は一つ、決定的な過ちを犯していた。
確かに敵は腕が二本に足が二本、極めて人に酷似した基盤だが……しかし、それでも人体ではない。
あくまで鬼の身体である。
まるでその事実を誇るかのように、鬼の背面が割れ、中から第三の腕が出現した。
その腕が、ミヅキ目掛けて襲い掛かり――、




