07
次の瞬間、椿組の面々があらぬ方を向いて驚嘆の声を上げた。
ミヅキもすぐさまそちらを見遣る。
ヒミコだ。どういう訳か鬼の背後を取っている。
だが敵も然る者。即座に振り向き大木のような巨椀を叩きつける。
しかしヒミコはそこにもういない。一瞬の内に空を舞い、鬼の眼前にまで迫っている。
「嘘でしょあの子……たった一度見ただけで、ものにしてしまったの⁉」
熟達者のミヅキだからこそ、何が起きているかを理解できた。
〝縮空〟だ。空間を折り畳んで圧縮し跳躍する最難関巫術。
ヒミコはこの短期間でそれを習得し、実戦に用いている。
「オラァアアアアッ!」
無論、まだまだ粗削りだ。跳躍の際に霊気が漏れ圧縮空間が露呈している。あれではどこへ跳ぶか一目瞭然なので奇襲には使えまい。
だがそれでも、縮空の本領足る神速機動は十分にこなせている。如何な大型鬼といえどもあの速さを捉えるのは困難だ。
ならば状況としては五分と五分。
いける、かもしれない――。
「ヒャッハァァァアアアアッ!」
すれ違いざまに一閃。ヒミコが二ツ角の一本を斬り落とした。
角は鬼の力の源泉。明らかに敵の動きが鈍る。
その隙をむざむざと見逃すヒミコではない。圧縮空間を立て続けに駆けて跳び、もう一本の角へ御幣を振り下ろす。
だがそこへ、
「新手⁉」
最悪の横槍。予期せぬ方角から別の大型鬼が飛び込んできた。
それも二体。
「チッ――!」
ミヅキはヒミコが苦々し気に舌打ちしたのを見て取る。仕留め損なったのだ。既の所で敵の攻撃を躱すだけで精一杯だったのである。
そこから容赦なく浴びせられる追撃の嵐。
ヒミコは神速を駆使し避け続けるが……このままでは体力、霊気共に持つまい。
瞬く間に状況が悪化した。
「夜代司令――!」
突如、椿組の巫女がミヅキに呼びかける。振り返ると新たな顔ぶれが加わっていた。第七結界柱から桜組の巫女が増援に来てくれたのである。
ありがたい。この戦力なら小型鬼へは問題なく対応できる。
だがそれでもヒミコは――彼女が一手に引き受ける大型鬼三体には――手の打ちようがない。
予備の義手があれば加勢することもできたが……現状、隻腕の自分では足手纏いだ。せいぜい時間稼ぎになるか否かだろう。
となれば別の策を打つ必要がある。
ミヅキは一度意識的にゆっくりと息を吐き、現状を脳内で再構築して俯瞰的視点で観察した。
大型鬼が三体……。これまでにない規模だ。本部でも直前に情報を掴んでいただろう。だからシマメが桜組を手配してくれたのだ。しかしこれだけか? いや、そんなはずはない。本部は大型鬼の出現まで予測していたはずだ。ならばシマメが打ったであろう手は――。
ミヅキは面を上げた。