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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 昇降機前
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(うーん、やっぱり修理に出した方がいいかしら……)
ヒモロギへと帰還したミヅキは考え事をしつつ昇降機を待っていた。
(走りに支障が出ている訳じゃないけど……ちょっと気になるのよね)
愛車〝紫閃〟のことである。
ほんの僅かだが重心がズレていたので、可能ならば直したい。
(あ、そうだわ。技術部の子たちにお願いするっていうのは――)一瞬、妙案かと思いきや、(……いえ、ダメね)すぐに却下。(そんなことしたら絶対シマメが怒るわ……〝公私混同だ〟って)薄い肩を落とす。(シマメは口うるさいものねぇ……そういうとこに)
などとミヅキが内心で愚痴っていたその時、
「お、ミヅキ」昇降機の扉が開いた。「戻ってたのか」中から出たのはまさしく矢車シマメその人である。
「うひゃあ⁉」
「なんだ突然ヘンな声だして。失敬なヤツだな」
「い、いえ、ちょっとねっ。考え事してて……あはははは」誤魔化し笑いで切り抜けるミヅキ。「って、あら?」そこでふと気づく。「ねえ、それよりシマメ。あなたこそどうしたの。なんだかうれしそうじゃない」
銀縁眼鏡のシマメ。第三者が見ればいつも通りのピシッとした異海装姿だが、長い付き合いのミヅキにはどことなく大きな胸を弾ませているのが見て取れた。
「ふふ、実はな」満面の笑みを浮かべるシマメ。「ユイナから電文が届いたんだよ。来週には、こっちに戻ってこれるらしい」
「本当⁉」
方波見ユイナ。
ヒミコらと同じ高巫の最上級生で、現在は異ノ国々の一国である譜ノ国へと出向していた。
その目的は、
「じゃあ、いよいよ新型機ができたのね――」
である。
「ああ、電文に仕様書が添付されてたので見てみたが……」シマメが目をキラキラと輝かせる。「アレは、すごいぞ」
「そんなに?」
「うむ。やはり異ノ国々の機械技術はすごい。しかもあれなら〈ウズメ〉にも転用可能だ。大幅な改修が必要になるがな」
「なら禍ツ忌ノ鬼にも対抗できるのかしら」
「うーん……」ふとシマメの顔が曇る。「流石にそれはまだ厳しいだろうな。なんと言っても〝天ツ玉垣〟のことがある。それに疑似太極炉も理論上の最大値がまだまだ低いしなぁ」
「そう……」
「ただ〈アマテラス〉との連携はこれまで以上に上手くいくと思うぞ。〈ウズメ〉より三倍近く大きくなるみたいだし」
「三倍⁉ へぇ、それはすごいわね――」
現時点での〈アマテラス〉と〈ウズメ〉の尺度差は巨人と小人のそれだ。
新機体が〈ウズメ〉の三倍なら、その差は大人と子ども程度にまで縮まるかもしれない。
禍ツ忌ノ鬼は厳しくとも、大型鬼ならもはや敵ではなかろう。
「であれば〈ウズメ〉の改修を急いだ方が良さそうね」
「ああ。〈アマテラス〉と新型と改修した〈ウズメ〉、この三機が揃えば格段に戦力が――」
と、二人が議論に花を咲かせていたその時、
『黄泉比良坂に活性化の前兆あり!』
突如、警報が鳴り響いた。
『総員、直ちに戦闘配置につけ!』
意味するところはただ一つ。
鬼が、来る――。




