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同日 同刻
/緋ノ宮 八重樹群
貴族院第一議員会館 地下駐車場
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車内灯のぼうっとした光が老人の顔に不気味な陰影を与えていた。
貴族議員、金光ノボルである。
「それで、古宮よ――」金光は鋭い目つきで運転席に座るもう一人の男を見た。「例のモノはしかと仕掛けたであろうな」
「はい、先生」古宮は無表情で応える。
「よし、ならば車を出せ」
「はい、先生」古宮の発する言葉の大半はそれだ。金光からそう教育されている。
「あの女狐め……!」
金光は小さな肩を精一杯に怒らせる。
まるで老いぼれた鼠が毛を逆立て威嚇するかのようだ。
「こ、この儂を……この儂を、軽んじおって!」
往々にして、研究者というのは二種類に分けられる。
純粋に研究へ没頭できる者と――そうでない者。
後者の理由は様々だ。
能力不足、加齢による衰え、古い主題への執着、そして……前者への嫉妬。
奇妙なことに、そういう者ほど〝自身が優秀である〟という幻想に強く縋りつき、空虚な自尊心を風船のように膨らませる。
その風船が飛び、行き着く先は政治の世界だ。
そこで得た他人の力を振るうことで、己の充実感を満足させる。
金光はまさしくそのような類であった。
「まったく、他のヤツらも腑抜け揃いよな……! あんな小娘どもの言いなりになりおって……!」
〝馬鹿〟というのは知識の有無や知能の良し悪しで決まるのではない。
どこまでが〝可〟で、どこからが〝否〟か――その境界を見定められぬ者を指す。
「女狐め、目に物見せてくれるわ……!」
その意味では、まさしく今の金光は〝馬鹿〟であった。
「もっと車を飛ばせ、古宮。ヒモロギに急ぐのだ」




