03
ヒミコに走った衝撃は筆舌に尽くし難い。
それでいて、おそらく一般人にはひどく伝わりにくい衝撃だ。
厳密に言えばヒミコは、ミヅキが結婚していた、出産していた、という事実自体には何も驚いてはいない。
ミヅキは器量もよく、また年齢を考えればさほど不思議でもないことだ。
問題の根本は――それでいてミヅキがあれほど緋ノ巫女として秀でている、という点にある。
「おいおいおいおいおいっ! 嘘だろそれホントかよ⁉」
「ん? なんだ聞いてなかったのか、ミヅキから」
「聞いてねーよ! てゆーかちょっと待て! アイツ、結婚して、子供までいて、それでいてあの強さなのか⁉」
緋ノ巫女。
其は〝月ノ神〟より異能の力を授かったとされる女性たち。
だがこの力。かなり奇妙な性質を持つのだ。
第一に、何故かはわからぬが〝処女〟と大きく相関する。端的に言えば破瓜と同時に力がいくらか落ちるのだ。そのため、帝國巫女局では一時期〝貞淑検査〟なる何とも気持ち悪い定期診断が存在したくらいである(現在は廃止済み)。
第二に、出産。これは破瓜よりもさらにガクッと力が落ちる。一説には、生まれた子供に力が移るためだとか。
「で、でもよ――」
ただし、これらの力の喪失は各々で月の物の重い・軽いが違うかの如く、個人依存が非常に強い。極端な例を拾えば無力化にまで至る場合も確かにあるが、中には逆にほんの少しの弱体化で済む者もいる。
「――だもんで、アイツの場合はほとんど衰えてねー。そういうこったろ?」ヒミコは珍しく半ば狼狽えながらシマメに問う。
だが。
「はっはっは」シマメは〝最高の冗談を聞いた〟とばかりに笑い飛ばす。「何を言ってるんだヒミコ。逆だよ逆。ミヅキは結婚して、子供が生まれてからというもの、めっきり力が落ちてしまった」
「うそ、だろ……?」
「嘘なもんか。すごかったんだぞ、全盛期のアイツは」シマメはまるで自身を誇るかのように言う。「今のミヅキじゃ、どんなに多く見積もったってあの頃の四半分に届くかどうかだろうなー」
「しはん、ぶん……?」
半分の半分。つまり四分の一だ。
ヒミコは目を白黒させてダラダラと冷や汗を流す。
そりゃそうだ。
何せ尾沼崎を脱した際、ヒミコはその四半分の相手にああもしてやられている。
「とんでもねえバケモンだな、アイツ……」
「ま、伊達や酔狂で史上最年少の壱番隊巫女頭や帝國巫女局長は務まらない、ということさ」
「ふーん」
「本当にな………………スゴイ奴だったんだよ。あの頃のミヅキは」
シマメは。
終わりつつある夏の空を見上げ、そう呟いた。




