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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第伍話 冷たい血、温かい血

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16

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 早朝

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部

  医療棟 玄関

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 既に夜が明けていた。

 

〈アマテラス〉を地下格納庫へ戻し、その後、医療棟で治療と検査を終えたヒミコは〝ようやく解放された〟とばかりにくあっと伸びをする。

 

「………。………………。………………………。」

 

 不思議な気分だった。

 

 前回の戦いでは自分が自分でなく、記憶も朧気(おぼろげ)だったが……今回はすべて()()()()()

 

 鬼と戦い、逆具象化空間を脱し、そして討ち取ったところまで。

 

(でも、ありゃいったい……()()()()()()()?)

 

 わからぬのは最後の瞬間である。

 

 鬼の角を斬り落とし、前と同様に爆発が生じたあの時、

 

()()が、入ってきた……アタシの……いや違う、〈アマテラス〉の中に)

 

 何か。

 

 正体はまったくわからない。

 

 あくまでその気配に気づいただけだ。

 

 ただ()いて言えば、

 

「ハク……」

 

 少女。あの白い少女が発する存在感にどこか似ていた気がする。

 

「おい、いんのかハク」

 

 だが少女からの返事はない。

 

(あのヤロウ……まだ寝てんのか)

 

 鬼を倒すなり、ハクは『ねむいからねる』と言ったきり姿を見せずにいた。

 

 あの少女が一度そうして引っ込むと、あちらからまた出てくる以外に再会の(すべ)はない。

 

(だいたい眠いってなんだよ、眠いって。んなの初めてアイツの口から耳にしたぞ……わかんねーことばっかだな)

 

 ヒミコは肩を(すく)め、医療棟を出た。

 

「やあ神越(カミコシ)」すると、そこにいたのは、「待ってたよ」ルリカである。

 

「……あんだよ。まだ何か用があんのか」

 

 ヒミコは露骨に〝うへぇ〟と口を(ゆが)める。

 

 だがルリカは一向構わず(ほが)らかに語り出した。

 

「二つ、用があるんだ」

 

「後にしてくれ。アタシは(ねみ)ーんだ。寝る」

 

「そうか。でも私はキミが嫌いだからね。キミの事情なんて気にもかけないよ」

 

「喧嘩売ってんのかてめー」

 

「何が見えてたんだい?」ルリカは(すご)むヒミコに物怖(ものお)じもせず切り出した。「あの白い空間の中で、私には敵が両親の姿に見えていた。キミの目にはいったい何が映っていたんだい?」

 

「……なんでんなことてめーに言わなきゃならねーんだよ」

 

「ああ、イヤなら別にいいよ。コレは純粋に、好奇心で知りたかっただけだから」

 

「なら言わねー」

 

「そっか」

 

 実際、ルリカはあっさりと引き下がった。 

 

(ったく……ヤなこと思い出させんなよな)

 

 ヒミコは内心で溜息を()く。

 

 彼女が逆具象化空間で見たモノ。

 

 それは――かつての仲間、()番隊の面々に他ならない。

 

 だからこそ、ヒミコはあれほどまでに怒り狂っていた。

 

 仲間たちの姿をした敵を斬らねばならぬこともだが――何よりも、(つか)の間とはいえ〝皆が生きている〟と思ってしまった自分自身に。

 

 かつて、育て親のヨウコは言っていた。

 

『命は一度だ。一度きりしかない。だからこそ、使い方を誤るな』と。

 

 その教えを踏みにじりかけた自分が、どうしても許せなかったのである。

 

「じゃあ、二つ目の方の用に移ろうかな」

 

「うるせえ、アタシにつきまとうな」

 

「そういわずに、頼むよ神越。ちょっとでいいんだ、付き合ってくれよ。な?」

 

「……あんだよ」

 

 このままでは部屋までついてきかねない。いい加減面倒くさくなったヒミコは渋々と承知した。

 

「おお、いいんだな。ありがとう、恩に着るよ」

 

「いいから。早くしろ」

 

「じゃあ、そこに立ってくれ。ああ、もうちょっと右かな。うん、そこだ。そこでいい」ルリカは晴れやかな笑顔で頷く。「ついでに目を(つむ)って貰えるかな?」

 

「なんでだよ……」

 

「そっちの方がやりやすいからね。なあ、いいだろ?」

 

 ヒミコは訳も分からず目を閉じる。

 

 次の瞬間、

 

「 これはお返しだ 」

 

 思いっきり横面(よこつら)を殴られた。

 

「……いってーな。何しやがる」どうにか踏みとどまったヒミコがギロリと()めつける。

 

「ああ、スッキリした」だがルリカはまるで気にせず、ニコニコと笑顔を()やさない。「一発は一発だからな。きちんと返したぞ」

 

「はぁ? 一発だぁ――?」ヒミコは目を細め思い起こした。

 

 ああ、そういえば。

 

 あの白い空間でのことだ。確かに、殴った記憶がある。

 

 ルリカが錯乱していたので。

 

 まさか、こうも根に持っていたとは思わなかったが。

 

「よし、じゃあちょっと早いが飯にでも行こうか。そろそろ腹がへったろう。おごってやるよ」

 

「おい。なんでこの流れでそーなんだよ」

 

「言っただろう。私はキミのことが嫌いだからさ」

 

「ますますわかんねーよ」

 

「なんだ、わからないのか? 嫌いなヤツ相手には安い貸しを作っておくに限るぞ。その方が精神的に優位に立てるからな」

 

「……お前、ホントはすっげー性格悪かったんだな。正直引くわ」

 

「はっはっは、そう褒めてくれるな」

 

「褒めてねーよ」

 

「で、どうする。行くのか、行かないのか?」

 

 ヒミコは少し考え、言った。

 

「……確かに腹はへってる」

 

 

 

 ~第伍話 冷たい血、温かい血 完~

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