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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第壱話 解き放たれた少女
6/68

06

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /結界封印都市ヒモロギ 第六結界柱付近

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 百鬼夜行とはまさしくこのこと。

 

 一面見渡す限りの鬼、鬼、鬼。

 

 異形の大軍。魑魅魍魎(ちみもうりょう)跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)。悪夢が()れを成して人界を蹂躙(じゅうりん)してゆく。

 

 一口に鬼といえども、その生態系は多様であった。

 

 人と同じく二本の足で土を踏み締める鬼もいれば、獣のように四肢をつく鬼もいる。鳥の如く翼で羽ばたく鬼がいるかと思えば、魚類よろしく(ひれ)(ちゅう)を泳ぐ鬼もいる。虫に酷似した個体も多々見られた。一番多いのはこれらを混合した出来損ないの合いの子である。

 

 まるでデタラメな遺伝子ばかりを蒐集(しゅうしゅう)した悪趣味な博覧会のようだ。

 

 ただそれでも。

 

〝鬼〟として全を個に特性化(キャラクタライズ)すると、いくつかの共通点が見て取れる。

 

 第一に、額の中央に生えた〝(ヒト)(ツノ)〟。

 

 第二に、(うろ)のように(うつ)ろで仄暗(ほのぐら)い空白の眼窩(がんか)

 

 そして第三に、

 

「ははははははは――ッ!」

 

 飛び散る()()。鬼のそれは、まるで精液(スペルマ)のように白濁としていた。

 

「ようやく会えたなァー⁉ クソ虫どもォーッ!」

 

 群れの一画で白き華が咲く。雪のような純白の肌に鬼の鮮血を浴びて舞うは――神越(カミコシ)ヒミコ。

 

「待ってたぜェ、この時をよォォオオオオッ!」

 

 御幣(ごへい)を手に、次から次へと鬼を斬り刻む。

 

 まるで台風の目のようだ。周辺があっという間に一掃され、真空地帯が形成される。

 

椿(ツバキ)組! 戦える者は私に続きなさい! 負傷者は後方へ!」

 

 ミヅキはヒミコの動線を見極めつつ、残存戦力をまとめていた。

 

(神越さんが私の指示で動いてくれれば盤面をもっと有利に運べるのだけれど……それは無理な話ね)

 

 ヒミコはヒモロギに入り鬼を目にするや否や、嬉々として車から飛び出し戦線に加わった。

 

 獅子奮迅のその働きぶりには目を見張るものがあるが……所詮は一個人。〝点〟としての強さである。

 

 敵の軍勢を切り崩すには制圧力が足りていない。求められるのは組織的な作戦行動だ。

 

(でも、最大限利用することはできる――!)

 

 流石(さすが)()番隊の巫女である。ヒミコは狂喜乱舞の様相を(てい)しつつも、戦い方そのものは実に論理的(ロジカル)だ。常に最適解を選択し、敵への攻撃を最大化、自分の被害を最小化している。

 

 力量に差がある者では追従すら難しいが、ミヅキならば次の動きを予測し連携可能だ。

 

「そこの五人! あの群れを攻撃なさい! 【ばっくあっぷ】で三人ついて! 残りの者は私と一緒よ! 合図を出したらついてきて!」

 

 徐々にだが形勢が逆転してきた。ヒミコがその都度作る真空地点を飛び石にし、ミヅキと椿組が〝線〟となって鬼を殲滅(せんめつ)していく。

 

 だが、

 

「や、夜代(ヤシロ)司令! 〝(フタ)(ツノ)〟――大型鬼の出現です!」

 

 組員からの悲鳴じみた報告でミヅキの顔色が変わった。

 

 婦女子にしては上背(うわぜい)のあるヒミコとミヅキだが、新手の鬼は軽く()()を上回る。

 

 具象化した以上は鬼にも物理が正当に働くので、身の丈が五倍なら重量はその三乗だ。

 

 つまり、一二五倍もの質量差。

 

 例えるなら(うさぎ)(ひぐま)に挑むようなものだ。

 

「第二防衛線まで後退なさい!」

 

 間髪入れずミヅキは指示を下す。椿組は即座に従った。

 

 だが、

 

「ははははははは――ッ!」

 

 ヒミコは違う。雄叫びと共に突貫した。

 

 どこへ? 言うまでもなく大型鬼に、である。

 

「神越さん⁉ 何をやってるの、下がりなさい!」

 

「やってみなくちゃわかんねーだろォオオオ⁉」

 

「生身では無理よ! 援軍を待ちな――――――ああっ⁉」

 

 ほんの一瞬の出来事だった。人と獣を混じりあわせたような大型鬼が振るった太い腕。

 

 巻き起こった旋風がミヅキの所にまで到達する。

 

「そんな……神越さん……!」

 

 ヒミコの姿はどこにもなかった。

 

 ミヅキは目を見開く。

 

 ()()()()――致命的な失敗だ。こんなところで、あの子を失ってしまった。あの子にはもっと()()()使()()があったというのに――!

 

(私のせいだわ……! 私が無理矢理にでも止めていれば……! いったい()()()になんと言えば――)

 

 次の瞬間、

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