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気づけばルリカは〝梓ノ長弓〟を手に敵を射貫いていた。
「あ?」ヒミコはそれに動きを合わせる。「なんだよ、やる気がでたのか」
だが所詮は即席の連携。練度は低い。
「……そういうワケじゃあないんだがね」
「じゃあなんだよ」
「……なあ神越、」
訊きたかった。
純粋に、知りたかった。
「お前はなんで、戦ってるんだ……?」
その理由を。
自分でも何故かはわからない。
ただそれでも、知らなければならぬ気がした。
「んなの話してる場合かよ」
「それはそうなんだが……なあ、頼むよ神越」
「はぁ……」ヒミコは小さく溜息を吐き、答えた。「……コイツらを殺すことだけが、今のアタシの生きる意味だからだ」血煙の中を舞うように斬り進む。「特にコイツは許さねえ。三本角は全部許さねえがコイツはあまりにも格別だ。絶対に、とる」
強い意思。
鋼の精神。
焔の激情。
「……そうか」
嘘偽りは欠片もない。
ヒミコは――どこまでも自分のために戦っている。
人の目ばかりを気にする自分とは違って。
ルリカにはそれが痛いほどよくわかる。
(ああ、そうか……そういう、ことだったんだ)
この時になってようやく、ルリカは気づいた。
自分の本当の気持ちに。
「神越、」
〈アマテラス〉を取られたから?
否、違う。
「正直に言っていいかな?」
自分より強いから? 才能溢れるから?
否、これらも違う。
「……なんだよ、急に」
ルリカがヒミコを一目見た時からずっと抱いていた感情。
それは、
「 私はキミが大っ嫌いだ 」
紛うことなき嫉妬だった。
黒く燃えた、ドロドロの。
「……ああそうかい、アタシも好きじゃねえな。てめーみてぇに外面ばっかを気にするヤツはよ」
「ふふ、ではお互い気持ちが通じ合ってるということだな」
うらやましい。
でも自分にはできない。届かない。
だから妬ましい。
ある意味でそれは――片思いにも似た心の動きだった。
「絶対に、キミとだけは一緒に死にたくないな。決めたぞ。私は将来、キミの亡骸を指さして笑ってやるんだ。それまでは何があっても死ねない」
「勝手に言ってろ。アタシは絶対に死なねえ。コイツらを一匹残らず皆殺しにするまではな」
「なんだ、意見が合うじゃないか。そのためには――」
「そういうこったな。そのためにも――」
「「 ここから出るしかない 」」
その瞬間、二人の連携が加速度的に組み上がった。
次々と敵を斬り伏せるヒミコ。
的確に敵の急所を射るルリカ。
「凛堂! お前はあっちだ! こっちはアタシが引き受ける!」
ヒミコが〝赤い亀裂〟を目で示す。
赤い亀裂。二人とも感じていた。あそこから明らかに人界と思しき気が流入している。
一撃でもあの亀裂に叩き込めれば、ここから出れるに違いない。
あの、遠く離れた赤い亀裂に――。
「……いや神越、それでは駄目だよ」だがルリカはヒミコの案を却下した。
「はぁ⁉ なに言ってんだてめぇ!」目を剥き怒鳴り散らすヒミコ。「どう考えたって、てめーの方が向いてるじゃねーか! アタシの斬撃じゃあそこまで届いた頃には威力がガタ落ちなんだよ!」
「人の話を最後まで聞け」ルリカは冷静に続けた。「そうだよ。キミの粗雑な攻撃じゃとてもとても、あんな離れた標的を仕留めるなんて無理だろう。でもな、それでいいんだよ――」
知りたいのは傾向だ。
先の射撃で、ルリカはこの空間の性質を経験している。
ここでは物理法則――そもそも〝物理〟かもわからぬが――が異なり、矢の軌道が捻じ曲げられてしまうのだ。
近距離射撃ならともかく、あれだけ離れた位置となると生ずるズレは致命的である。
しかも、そのズレ方は刻一刻と変わるようだ。
それでは当たるものも当てられまい。
「だから最初にキミが斬撃を飛ばしてくれ。できるだけ多く、だ。私はそこからズレを読み取り、最後に一撃を見舞う」
それでどうだ――ルリカが見遣ると、既にヒミコは赤い亀裂に向け無数の衝撃波を放っていた。
(まったくコイツらしい……自分の目的に沿うんなら、何でもやるんだな)
ルリカは呆れ半分、感心半分になりつつも、それぞれの斬撃を注意深く見据える。
この間、同時に地上の敵にも対応していたのは流石というべきか。
やがて、
(見切った――!)
そう判断するや否や、ルリカがヒミコの肩を踏み台に高く跳ぶ。
「代われ神越!」
青色の霊気を纏った矢を番え、亀裂から大きく外れた方角へと向けた。
そこから放たれた矢は、白い空間を滑るようにして軌道を変え、やがては赤い亀裂へと――。




