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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第伍話 冷たい血、温かい血

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13

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /逆具象化空間内

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「ルゥリィカァァアアアァァァアアアッ!」

 

 姿形だけは父母と似通ったモノたちが断末魔を上げる。

 

 ルリカは死屍累々と横たわる父母たちの(むくろ)を背に、疲れ切った眼差しで遠くに浮かぶ〝赤い亀裂〟へと狙いを定めた。

 

「………。………………。………………。」

 

 連続して放たれた矢が白い空間を飛翔する。

 

 だが、

 

「やっぱり……駄目だ」

 

 一本たりとて当たらない。

 

 この空間自体の性質だろうか。霊気を纏った矢は軌道を曲げられ、思う通りに飛んでくれない。まるで宙を彷徨(さまよ)うかの如くあらぬ方に消えていった。

 

(無理だ……無理なんだ……私には)

 

 ()(たび)に目に見えて憔悴(しょうすい)するルリカ。

 

 それでも次から次へと矢を(つが)え放つ手の動きは止まらない。

 

 感情の伴わぬ機械的な動きだ。

 

 そこにあるのは意地ではない。信念でもない。

 

 単に――〝やめろ〟と言われぬからしているだけだ。

 

「やめろ」

 

 と、その時。()しくもヒミコがそれを口にする。

 

 ルリカがピタリと手を止めると、ヒミコは先と同じく〝縮空(シュックウ)〟で場所を変えた。

 

 だが、もうどこへ行ってもさほど変わりはない。

 

 気づけば白い空間を埋め尽くすほどに父母の群れは増え、四方八方から押し寄せていた。

 

「チッ」

 

 ヒミコが舌打ちと共に御幣を振るうと周囲が一掃され、(つか)の間の真空地帯が形成される。

 

 ルリカはただ、(ほう)けたように飛び散る血を見ていた。

 

「てめー、なんで本気でやんねえんだ?」敵を迎え討つヒミコがルリカを背にし訊く。

 

「本気だよ」ルリカはポツポツと答えた。「私は、いつだって、本気だ」

 

「嘘つけ」ヒミコが勢いよく母の首を斬り飛ばす。「この間やった時とはまるで別人じゃねえか」

 

「別人、か……そうだな。本当に、そうかもしれない」

 

「ざけてんのか?」

 

「ふざけてるつもりはないさ」

 

 あの時はまだ。

 

 夢を見ていた。

 

 コイツに勝てる、と。

 

 自分は負けない、と。

 

 けれども、今は――。

 

「私には無理だ、無理なんだ。お前とは違う。私は選ばれなかった」

 

「なに言ってんだ、てめー」

 

「もう……誰も私を見てくれないんだよ」

 

「つまり、」ふとヒミコが声を落とす。「てめーは諦めた。だからこれ以上、何もしない。そう思っていいんだな?」

 

「……うん」

 

「 なら死ね 」

 

 次の瞬間、ヒミコが本気で斬り掛かってきた。

 

 ルリカは間一髪、霊気を纏わせた弓で受け止める。

 

「お前……どういうつもりだ⁉」

 

「あ? てめーこそ何してんだよ。何もしねーんじゃなかったのかよ」

 

「そ、それは――」

 

 気づけば反射的に身体が動いていた。

 

 長年の鍛錬の成果でもあるのだろう。

 

 巫女としての本能でもあるのだろう。

 

 だが、何より――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 咄嗟(とっさ)に取った行動はその証左としか思えなかった。

 

(もしかしてコイツ、それを気づかせるためにわざと――?)

 

 ルリカはハッと息を呑んでヒミコを見返す。

 

 だが、

 

「目障りだ。やる気がねーんなら今すぐアタシの前から消えろ」

 

 そんなことはまったくなかった。

 

 ヒミコの緋色の瞳は、ルリカに対して何の関心も寄せていない。

 

 あるのはただ――怒り。

 

 敵へと向けた、苛烈な怒り。

 

 事実、ヒミコは愕然(がくぜん)とするルリカを放り出し、敵の中へと切り込んでいく。

 

(ア、アイツ――)

 

 この時になってようやくルリカは気づいた。

 

 ヒミコの戦いぶり。憤怒が形を得たような荒々しさと禍々(まがまが)しさ。

 

 けれども何故か。

 

 そこには()()()()()()()()()()()()が共在している。

 

(アイツ、には――)

 

 そういえばヒミコは言っていた。

 

『お互い、全然別のモノが見えてる』と。

 

 ()()()

 

 ()()()()()()

 

(アイツにはいったい、何が見えているんだ――?)

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