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同日 同刻
/逆具象化空間内
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「ルゥリィカァァアアアァァァアアアッ!」
姿形だけは父母と似通ったモノたちが断末魔を上げる。
ルリカは死屍累々と横たわる父母たちの躯を背に、疲れ切った眼差しで遠くに浮かぶ〝赤い亀裂〟へと狙いを定めた。
「………。………………。………………。」
連続して放たれた矢が白い空間を飛翔する。
だが、
「やっぱり……駄目だ」
一本たりとて当たらない。
この空間自体の性質だろうか。霊気を纏った矢は軌道を曲げられ、思う通りに飛んでくれない。まるで宙を彷徨うかの如くあらぬ方に消えていった。
(無理だ……無理なんだ……私には)
射る度に目に見えて憔悴するルリカ。
それでも次から次へと矢を番え放つ手の動きは止まらない。
感情の伴わぬ機械的な動きだ。
そこにあるのは意地ではない。信念でもない。
単に――〝やめろ〟と言われぬからしているだけだ。
「やめろ」
と、その時。奇しくもヒミコがそれを口にする。
ルリカがピタリと手を止めると、ヒミコは先と同じく〝縮空〟で場所を変えた。
だが、もうどこへ行ってもさほど変わりはない。
気づけば白い空間を埋め尽くすほどに父母の群れは増え、四方八方から押し寄せていた。
「チッ」
ヒミコが舌打ちと共に御幣を振るうと周囲が一掃され、束の間の真空地帯が形成される。
ルリカはただ、呆けたように飛び散る血を見ていた。
「てめー、なんで本気でやんねえんだ?」敵を迎え討つヒミコがルリカを背にし訊く。
「本気だよ」ルリカはポツポツと答えた。「私は、いつだって、本気だ」
「嘘つけ」ヒミコが勢いよく母の首を斬り飛ばす。「この間やった時とはまるで別人じゃねえか」
「別人、か……そうだな。本当に、そうかもしれない」
「ざけてんのか?」
「ふざけてるつもりはないさ」
あの時はまだ。
夢を見ていた。
コイツに勝てる、と。
自分は負けない、と。
けれども、今は――。
「私には無理だ、無理なんだ。お前とは違う。私は選ばれなかった」
「なに言ってんだ、てめー」
「もう……誰も私を見てくれないんだよ」
「つまり、」ふとヒミコが声を落とす。「てめーは諦めた。だからこれ以上、何もしない。そう思っていいんだな?」
「……うん」
「 なら死ね 」
次の瞬間、ヒミコが本気で斬り掛かってきた。
ルリカは間一髪、霊気を纏わせた弓で受け止める。
「お前……どういうつもりだ⁉」
「あ? てめーこそ何してんだよ。何もしねーんじゃなかったのかよ」
「そ、それは――」
気づけば反射的に身体が動いていた。
長年の鍛錬の成果でもあるのだろう。
巫女としての本能でもあるのだろう。
だが、何より――自分はまだ生きたいと願っている。
咄嗟に取った行動はその証左としか思えなかった。
(もしかしてコイツ、それを気づかせるためにわざと――?)
ルリカはハッと息を呑んでヒミコを見返す。
だが、
「目障りだ。やる気がねーんなら今すぐアタシの前から消えろ」
そんなことはまったくなかった。
ヒミコの緋色の瞳は、ルリカに対して何の関心も寄せていない。
あるのはただ――怒り。
敵へと向けた、苛烈な怒り。
事実、ヒミコは愕然とするルリカを放り出し、敵の中へと切り込んでいく。
(ア、アイツ――)
この時になってようやくルリカは気づいた。
ヒミコの戦いぶり。憤怒が形を得たような荒々しさと禍々しさ。
けれども何故か。
そこには身を斬られるような哀しみが共在している。
(アイツ、には――)
そういえばヒミコは言っていた。
『お互い、全然別のモノが見えてる』と。
お互い?
全然別のモノ?
(アイツにはいったい、何が見えているんだ――?)




