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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第伍話 冷たい血、温かい血

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11

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /逆具象化空間内

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「お母さ、ん」

 

 斬られた首が。

 

「お父さん――」

 

 血を撒き散らしながら。

 

 宙を舞う。

 

 ――誰が。

 

 誰が、こんなことを。

 

「ちょうどよかった、手伝え」

 

 コイツか。

 

 コイツだ。

 

 神越(カミコシ)ヒミコ。

 

 コイツが、コイツが、コイツが――お母さんと、お父さんを。

 

 許さない。

 

 許さない、許さない、許さない!

 

「神越ィィイイッ!」

 

 瞬間、ルリカは激情に身を任せ、ヒミコに襲い掛かる。

 

「あ?」

 

 だが即座に返り討ちにされた。

 

 霊気を纏ったヒミコの拳が容赦なくルリカの横面(よこつら)を打ち抜く。

 

 そのまま倒れ込んだところを踏みつけられ、身動きが取れなくなった。

 

「なにトチ狂った真似してんだ、てめー」

 

「お前が! お前がお母さんとお父さんをッ! ウワァアアァアアッ!」

 

()()()()()()()()()……?」

 

 ヒミコはオウム返しに呟き、眉を(ひそ)める。

 

「……ああそうか、てめーには()()がそう見えてんだな」手にした御幣(ごへい)で父母の首を示すヒミコ。「じゃあ、あっちはどうよ」御幣の向く先が変わった。

 

「え」

 

 そこには。

 

「ルリカ」

「ルリカ」「ルリカ」

「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」

「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」

「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」

「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」

 

 群れが――()()()()()()()()()

 

「どうやら同じみてーだな」

 

 言うや否や飛び込むヒミコ。直後、父母の断末魔と鮮血が白い空間に飛び散る。

 

 ルリカは現実についていけず、ただ茫然と殺戮の現場を目の当たりにしていた。

 

「要するに、だ」群れを一掃し戻ってくるヒミコ。「お互い、全然別のモノが見えてるってぇワケだな」(うつむ)き表情は(うかが)えない。返り血をふんだんに吸った巫女装束が異様な重みを帯びていた。

 

(コイツは……こんな状況でも……冷静に……)

 

 ようやくルリカの意識が輪郭を取り戻しつつあった。

 

 一度この場に対する認識が改まると、不思議なまでに身体と心が順応してくれる。

 

 だが。

 

 それは必ずしもいいことばかりではなかった。

 

(だというのに私は……やっぱり、ダメなんだ……私じゃ、コイツに……)

 

 復調した理性は(つぶさ)に現状を分析し、非情な結論を導き出す。

 

 ルリカの劣等感を(いた)く刺激する結論――。

 

()()()()()()()()()()()

 

 ルリカは。 

 

 自分の心が砕ける音を聞いた。

 

「おい。いつまで寝てんだ。起きろ」

 

「……ああ、わかった」もう、逆らう気力もない。「そうするよ」言われるがままに従った。

 

「また敵が来てる。お前も戦え」

 

「うん」楽だから。何も考えずに、誰かの言いなりで生きるのは。

 

 気づけばルリカの手には〝(アズサ)長弓(ナガユミ)〟が握られていた。

 

 驚くこともない。ここはきっと、()()()()()()だ。

 

(なら〈ウズメ〉も呼べば来るのかな……いや、違うか。〈ウズメ〉は()だ。()が〈ウズメ〉なんだ……)

 

 ルリカは(おの)ずと奇妙な事実を受け入れていた。

 

「てめえ」舞い上がる血煙の中、突如ヒミコが噛みついた。「何を腑抜けてやがんだ。もっとしっかりやれ」

 

「……私はやってるよ。しっかり。誰よりもしっかりな……」ルリカは青い瞳を空虚に染め呟く。「それでも駄目なのは単に私の実力不足だよ。どうしようもない」

 

 絡繰(からくり)人形が如く矢を(つが)えては放つルリカ。

 

 狙いは正確だが、所詮は長年の修練に身を任せただけの動きに過ぎない。

 

 当然、ヒミコには巫山戯(ふざけ)ているようにしか見えなかった。

 

「……一旦下がるぞ」

 

 半ば無理矢理にルリカの手を取り〝縮空(シュックウ)〟で敵と距離を取る。

 

「どういうつもりだ」そのまま胸座(むなぐら)を掴んだ。「自分の親の姿をしてたんじゃあまともに戦えません、ってぇのか。え?」ルリカは目を合わすことすらできない。

 

 ヒミコは何も理解していなかった。

 

「何とか言え」

 

「………。………………。………………………。」

 

「チッ」黙したままのルリカを舌打ちと共に突き放す。「まあいい。じゃあここからは役割分担だ。アイツらはアタシがやる。その代わりお前は」

 

 ()()を落とせ――ヒミコは遠くを指さす。

 

 その先には。

 

〝赤い亀裂〟が宙に浮かんでいた。

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