11
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
同日 同刻
/逆具象化空間内
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
「お母さ、ん」
斬られた首が。
「お父さん――」
血を撒き散らしながら。
宙を舞う。
――誰が。
誰が、こんなことを。
「ちょうどよかった、手伝え」
コイツか。
コイツだ。
神越ヒミコ。
コイツが、コイツが、コイツが――お母さんと、お父さんを。
許さない。
許さない、許さない、許さない!
「神越ィィイイッ!」
瞬間、ルリカは激情に身を任せ、ヒミコに襲い掛かる。
「あ?」
だが即座に返り討ちにされた。
霊気を纏ったヒミコの拳が容赦なくルリカの横面を打ち抜く。
そのまま倒れ込んだところを踏みつけられ、身動きが取れなくなった。
「なにトチ狂った真似してんだ、てめー」
「お前が! お前がお母さんとお父さんをッ! ウワァアアァアアッ!」
「お母さんとお父さん……?」
ヒミコはオウム返しに呟き、眉を顰める。
「……ああそうか、てめーにはコレがそう見えてんだな」手にした御幣で父母の首を示すヒミコ。「じゃあ、あっちはどうよ」御幣の向く先が変わった。
「え」
そこには。
「ルリカ」
「ルリカ」「ルリカ」
「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」
「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」
「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」
「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」「ルリカ」
群れが――母と父の、群れがいた。
「どうやら同じみてーだな」
言うや否や飛び込むヒミコ。直後、父母の断末魔と鮮血が白い空間に飛び散る。
ルリカは現実についていけず、ただ茫然と殺戮の現場を目の当たりにしていた。
「要するに、だ」群れを一掃し戻ってくるヒミコ。「お互い、全然別のモノが見えてるってぇワケだな」俯き表情は窺えない。返り血をふんだんに吸った巫女装束が異様な重みを帯びていた。
(コイツは……こんな状況でも……冷静に……)
ようやくルリカの意識が輪郭を取り戻しつつあった。
一度この場に対する認識が改まると、不思議なまでに身体と心が順応してくれる。
だが。
それは必ずしもいいことばかりではなかった。
(だというのに私は……やっぱり、ダメなんだ……私じゃ、コイツに……)
復調した理性は具に現状を分析し、非情な結論を導き出す。
ルリカの劣等感を甚く刺激する結論――。
(私じゃコイツに敵わない)
ルリカは。
自分の心が砕ける音を聞いた。
「おい。いつまで寝てんだ。起きろ」
「……ああ、わかった」もう、逆らう気力もない。「そうするよ」言われるがままに従った。
「また敵が来てる。お前も戦え」
「うん」楽だから。何も考えずに、誰かの言いなりで生きるのは。
気づけばルリカの手には〝梓ノ長弓〟が握られていた。
驚くこともない。ここはきっと、そういう場所だ。
(なら〈ウズメ〉も呼べば来るのかな……いや、違うか。〈ウズメ〉は私だ。私が〈ウズメ〉なんだ……)
ルリカは自ずと奇妙な事実を受け入れていた。
「てめえ」舞い上がる血煙の中、突如ヒミコが噛みついた。「何を腑抜けてやがんだ。もっとしっかりやれ」
「……私はやってるよ。しっかり。誰よりもしっかりな……」ルリカは青い瞳を空虚に染め呟く。「それでも駄目なのは単に私の実力不足だよ。どうしようもない」
絡繰人形が如く矢を番えては放つルリカ。
狙いは正確だが、所詮は長年の修練に身を任せただけの動きに過ぎない。
当然、ヒミコには巫山戯ているようにしか見えなかった。
「……一旦下がるぞ」
半ば無理矢理にルリカの手を取り〝縮空〟で敵と距離を取る。
「どういうつもりだ」そのまま胸座を掴んだ。「自分の親の姿をしてたんじゃあまともに戦えません、ってぇのか。え?」ルリカは目を合わすことすらできない。
ヒミコは何も理解していなかった。
「何とか言え」
「………。………………。………………………。」
「チッ」黙したままのルリカを舌打ちと共に突き放す。「まあいい。じゃあここからは役割分担だ。アイツらはアタシがやる。その代わりお前は」
アレを落とせ――ヒミコは遠くを指さす。
その先には。
〝赤い亀裂〟が宙に浮かんでいた。




