10
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 中央管制室
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
「〝逆具象化空間〟……?」初めて聞く言葉にミヅキは眉根を寄せた。「なんの、それはいったい」
「言葉通りの意味だよ」シマメが腕を組んで続ける。「具象化の逆……つまり、鬼が人の世に現れ出るのではなく、人が鬼の世に攫われる」
ある意味〝鬼隠し〟とでも言うべき現象だな――そう結ぶや否や、シマメは同行してきた技術部官長、根問カヤに声を掛けた。
「どうだ、カヤ? いけそうか」
「ああ、なんとかね」上司相手だろうと素っ気なく返すカヤ。彼女に限ったことではない。技術部の人間は往々にしてこういうものだ。「……よし。スズ、これでもう一度、再起動してくれるかい?」
「う、うん」カヤとは長い付き合いのスズが怖ず怖ずと端末を操作した。
すると。
描影装置が暗転した後、再び実時間で映像が流れだす。
そこに現れたのは、
「これって――!」
禍ツ忌ノ鬼。
その右腕。不可視の龍蛇。
否――今や不可視ではない。
拙いながらも数十本の線を組み合わせ、仮想描画ができている。
「へえ……」カヤがシマメの方を見遣る。「ずばり、アンタの読みが当たったってワケかい」
「まあ、そういうことだな」
「惜しいねぇ……世界初の逆具象化空間の観測。ここがヒモロギでさえなければ、大々的に発表できたろうに」
「しかし、そもそもヒモロギ以外でこれが現れることもまずあるまいよ」
「それもそうか」
「シマメ――」ミヅキが横から口を挟んだ。「掻い摘んで、教えてくれるかしら?」
これは大きな進展である。専門家ではないミヅキでもわかった。
重要なのは描画そのものではない。
シマメが敵の本質を見抜けたからこそ、それが可能となった事実だ。
「……つまり、その逆具象化空間とやらでは魄子が重要な役割を担っていると思っていいのね?」手短に説明を受けたミヅキが確認のように聞き返した。
「流石の理解の早さで助かるよ」シマメが頷く。「厳密には非調和因果律との干渉性などの点から少し差異があるが、概ねそう思ってくれて構わない」
「シマメ、単刀直入に訊くわね。ヒミコとルリカ、二人が生きている見込みはあるかしら?」
「〝生きている〟という言葉の定義にもよるが……」シマメが若干目を細める。「少なくとも私は、まだ生存の可能性が高いと考えている」
「本当⁉」
「ああ、とはいえ時間の問題でもあるな。あの中では魂が魄に、魄が魂に逆転している。物質と精神が入れ替わり、肉体と心が置き換わり……こちら側にいる私たちでは、想像も及ばぬ世界だ。そんな中で、おそらく鬼に、具象化前の純粋な魄としての鬼に、何らかの攻撃を受けているはずだ」
「となると二人がどこまで持ち堪えられるか、ね……」
「ああ、そうなる」
「二人を助け出せないかしら。案はない?」
「一応、あるにはあるんだが……」シマメが歯切れ悪く続ける。「だが駄目だよ、机上の空論に過ぎない」
「それでもいいわ。言ってちょうだいシマメ。今は藁にも縋りたい時なのよ」
「そうか? なら言うが――」
真剣な眼差しでシマメの話を聞くミヅキ。
「と、いうことなんだ。な? あまりに無謀な案だろう。そもそもどこにもそんな資源はないんだし」
「シマメ」
ミヅキは。
目をキラキラと輝かせシマメの手を取る。
「あなたって、やっぱり最高よ」
シマメはひどく嫌な予感がした。




