09
「ルリカ」
目を開けると、母がいた。
「ルリカ」
それだけではない。父もいた。
何故? どうして?
そもそも、ここはどこ。
白い空間。
果てのない、白一色の空間。
どこまでが近くで、どこからが遠くかすらわからない。
確かなことは一つだけ。
母と父が、いた。
そこにいた。
「今までよく頑張ったわね」
「でも、もういいんだよ」
何を。
言ってるの。
「私たちを許して」
お母さん。
「お前に重荷ばかりを押しつけてしまった私たちを」
お父さん。
「辛かったでしょう。ずっと、自分を押し殺して生きるのは」
「苦しかっただろう。ずっと、誰かの目を気にして生きるのは」
……うそだ。
「でも、もういいのよ。私たちには、あなたがいてくれればそれでいいの」
うそだ、うそだ、うそだ。
「ルリカはルリカらしくいてくれれば、それでいいんだ」
うそに決まっている。
わかってる、頭ではわかっているんだ。
それなのに――。
心が事実を受け入れてくれない。
「いつまでも一緒よ、ルリカ」
「いつまでもルリカのことを見ているよ」
ずっと聞きたかったその言葉。
認めて欲しかったのは自分。
いつだって、振り向いて欲しかった。
この人たちに。
だから必要だった。
他人からの賞賛が。
空虚な協調が。
「泣かないで、ルリカ」
「悲しまないで、ルリカ」
自制の壁が音を立て崩れ始める。
ルリカはただ、泣きじゃくる赤子のようにして二人の腕の中へ。
温かい身体。
温かい鼓動。
温かい――――――――――――――――――血?
「何してんだてめー。こんなとこで」
次の瞬間、ルリカが目にしたのは首を刎ねられた父母の姿だった。




