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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第肆話 不和と調和

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10

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /結界封印都市ヒモロギ

  尾居土(オイツチ)宿舎 五号棟 六階 六一三室

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「ん……?」

 

 扉を叩く音がした。

 

 こんな時間に。誰だろう。

 

 ハクも好奇心がそちらに移ったようで、はたと宙に静止し黙り込んだ。

 

「誰だ?」

 

「ああ、神越(カミコシ)(ほが)らかな声が返ってくる。「よかった、いたんだな。私だよ、凛堂(リンドウ)だ」

 

「凛堂……」この間の模擬戦の相手だ。あれ以来、こうして直接話すのは初めてである。「なんか用でもあんのか」

 

「ああ、少しキミと話がしたくてね……開けてくれないか」

 

「……明日にしてくんねーかな?」

 

「っ、そう言わず頼むよ神越。どうしても今、話したいんだ」

 

「………。………………。………………………。」

 

 正直、イヤな予感がする。

 

 が、このまま部屋の前で粘られても面倒なので、結局ヒミコは扉を開けることにした。

 

「……ほら」

 

「おお、ありがとう!」ルリカは取ってつけたような笑顔を浮かべ、「へえ、尾居土(オイツチ)の方はこんな感じなんだな」部屋の中に入ってきた。

 

 招かれてもいないのに。

 

「あ? 何勝手に入ってんだよ、お前」

 

「その点は謝る。すまない。あまり他には聞かれたくない話でね」

 

 ルリカは(いぶか)しむヒミコを余所(よそ)に、後ろ手で扉を閉めた。

 

「さて神越、少々聞き辛いことなんだが……何をしたんだ? 今日の放課後」

 

 ようやく事情を呑み込めた。どうやら用件はそれらしい。

 

「……言っとくが先に喧嘩を売ってきたのは向こうだぞ」

 

「そうは言ってもだな」ルリカは()()笑顔である。「いくらなんでもやりすぎじゃないか? 私たちは共に戦う仲間なんだぞ。それをああも傷つけるというのは――」

 

「だ、か、ら。先に手を出してきたのはアッチだっつってんだろ。それとも何か、じゃあお前は、向こうのお気に召すがままにアタシがやられてればよかったってぇのかよ、ああ?」

 

 勿論これはほとんど冗談のような問い返しである。

 

 少なくともヒミコはそう思っていた。

 

 だが、

 

「……時にはそういう態度が必要なこともある」

 

 ルリカはここで初めて笑顔を崩し、真顔で言い切る。

 

「はぁ? 何言ってんだお前」

 

「神越。キミだって本当はわかってるだろう――」

 

 そこからのルリカの弁はこうだった。

 

 やれ協調性が大事だの、和を乱すのは良くないだの、集団に受け入れて貰うには相応の姿勢と誠意が必要だの……。

 

 要するに〝郷に入っては郷に従え〟のようなことが言いたいらしい。

 

「ましてや、高巫(ウチ)にいるのは自尊心が高い者ばかりなんだ。それをむやみに刺激するのは、キミにとっても、ひいてはツクヨミという集団にとっても、決して【ぷらす】にはならないよ――」

 

「……はぁ」

 

 ヒミコは溜息(ためいき)()き、両の手の平を相手に向けコクコクと頷く。

 

 見ようによっては降参、ないしは首肯(しゅこう)にも似た絵だ。

 

 ルリカはようやく意図を()んでくれたかと目を輝かせる。

 

「わかってくれたんだな、神越――」

 

「 くっだらねえ。なんだよソレ 」

 

 無論、そんなはずがなかった。

 

「人の面子(めんつ)を潰すな? 空気を読め? みんなで一緒に?」

 

 ばーーーっかじゃねぇの。

 

 ヒミコはそう吐き捨てた。

 

 と同時に、

 

(ああ、なるほどな……)

 

 ようやく、わかった気がする。

 

 この何日か学校に通い、己の中で(くすぶ)っていた違和感が。

 

 違和感。

 

 それは――周囲との()()()だ。

 

〝復讐〟の二文字さえ果たせれば他には何もいらぬ自分と、あくまで輝かしい経歴(キャリア)とやらの一環にしか捉えていない彼女たち。

 

 その温度差だ。

 

 だってそうだろう。

 

 だからこそ、戦闘とは関係ないところに熱を入れ、くだらぬことで執拗にこだわる。

 

 まさに今、この瞬間のように。

 

 正直に言って――たまったものではない。

 

「……ま、でもいいさ」ヒミコがほとんど(あざけ)りの笑みを浮かべ言う。「それでいいよ。お前らはお前らで勝手にやっててくれ。アタシはアタシで好きにやる……つまりな、言いてえのはこういうこった」

 

 てめぇらのくだらねー仲良しごっこにアタシを巻き込むな――ヒミコは一語一語に悪意を籠め、言った。

 

 言い放った。

 

「そ――」半ば茫然自失としていたルリカがようやく切り返す。「そういう話じゃないだろ!」

 

「へー、じゃあどういう話なんだよ。アタシにはくだらねーことこの上ねーお山の大将の縄張り争いにしか聞こえなかったぞ」

 

「そうじゃない! そうじゃなくってだな! 私たちは共に戦う仲間だろう⁉」

 

「そうだ。んでもって、戦い以外のところで妙な格付けをやりたがってんのがお前らだろ?」

 

「な――⁉」

 

「ああ、でも勘違いするなよ。アタシは【ぷろ】だ。【ぷろ】だからこそ、余計な私情を挟まず戦う。必要なら共闘でも救援でもなんだってしてやるよ。その点は心配すんな」

 

 まあ、もっとも――ヒミコは鼻を鳴らして言った。

 

「そういう状況になるかはわかんねーけどな。アタシは〈アマテラス〉に乗るんだし」

 

 ()()()()()

 

 ヒミコには知る(よし)もなく、そもそも(はな)から他意もなかったが、結果としてこれは〝最〟がつくほどの悪手であった。

 

 ルリカのもっとも繊細でドロドロとした場所に、ヒミコはずけずけと土足で立ち入った。

 

 立ち入って、しまった。

 

「お前……!」一瞬の内にルリカは逆上し、見る見る内に青い瞳を怒りで燃やす。「お前ェェェエエェエエエッ!」そのままヒミコに掴みかからんとした。

 

「へ、やんのかよ」

 

 当然、すんなりとそれを許すヒミコではない。

 

 ルリカの手が空を切る。

 

 二人が霊気を纏い、衝突しかけたまさにその時、

 

黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)に活性化の前兆あり! 総員、(ただ)ちに戦闘配置につけ!』

 

 宿舎内に、警報が鳴り響いた。

 

 意味するところはただ一つ。

 

 鬼が、来る――。

 

 

 

 ~第肆話 不和と調和 完~

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