09
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部
月魅ノ塔 螺旋階段
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
ミヅキは大層気が進まなかった。
こんな時間での急な呼び出し。
ろくな用件でないのは明らかである。
あの人はいつだってそうだ。
こっちの事情などまるでお構いなしに――。
「……不満が顔に出ているぞ、ミヅキ」
隣りで一緒に階段を上るシマメが苦笑を漏らす。
「いいじゃない。あなたの前でくらい、正直になったって」
「友人冥利に尽きる言葉だな」シマメは息を切らしつつ言った。「それより、もう少し速度を落としてくれないか。お前と違って私はもうだいぶガタが来ているんだ」
「あ、ごめんなさい」
多少、歩を緩めるミヅキ。
それでも延々と続く螺旋階段を上る二人の足並みは、常人から見ればほとんど全力疾走並の速さだった。
「……ここに昇降機を設置しなかったのは、ツクヨミ最大の悪手だと思うよ」
「まったくね。一日中部屋籠りっぱなしのあの人はいいだろうけど、こうして足繁く通わされる身にもなって欲しいわ」
「〝すまじきものは宮仕え〟だな」
そのまま上り続け、二人はようやく最上階に辿り着いた。
「……失礼します」
ミヅキが扉を開け、神託ノ間へと入る。
先までと異なり、その顔からは如何なる表情も窺えない。
後にシマメも続いた。
(あら――?)
月明りしか射さぬ暗がりの中、ふとミヅキの目が見慣れぬものを捉える。
(左腕の……彫像? 前に来た時はあんなのなかったけれど……)
気になる。なんだろう。アレは。
訊いてみようか――そう思ったのも束の間、ミヅキはすぐさまその考えを頭から追いやる。
(無駄ね。どうせ訊いたって答えてくれるはずないわ……あの人から何も言わないのだったら)
実際、ミヅキの予想通りだった。
ハヅキは例によって例の如く、座したまま月だけを見詰め続け、こちらには一瞥もくれぬまま、彫像には一切触れずに語り出す。
「……鬼が来ます。第二の鬼が……禍ツ忌ノ鬼が」
ただちに迎え撃ちなさい――〝お告げ〟はそれで締め括られた。




