06
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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
高等巫術学校 一階 渡り廊下
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(終わってしまったか……)
傾いた夕陽を浴び、少し侘しい気持ちになりながらルリカは教室へと向かう。
彼女が受講していたのは〝解析霊気学〟だ。
元々大緋帝國で確立していた〝霊気学〟を、異ノ国々の高度な数学を用いて再体系化し、より複雑な問題への応用展開を目指した学問である。
まだまだ歴史の浅い萌芽的分野であり、散発する劇的変化で認識の刷新を求められることも多々あったが、それ故に学び甲斐も一入で、ルリカにとっては大層有意義な時間を過ごせた。
(座学はいい……。余計なことを考えずに済むからな……)
特に、ここ数日は修学が捗っている。
(わかっているさ……自分でも……これが現実逃避だと)
昨今、異ノ国々では時間が相対的だとする新奇な理論が提唱されているようだが、なるほど確かにそうかもしれない。
楽しい時間ほどあっと言う間に過ぎ、辛い時間は粘りつくように停滞する。
……イヤな感じだった。
まるで世界が自分の心臓に向かって少しずつ収縮しているような感覚――。
(ん……? めずらしいな。誰か残ってるのか)
ふと人の気配を感じた。
一〇一教室。自分の教室。
閉じられた引き戸越しでもわかる。
誰か……いや、一人や二人ではない。もっといる。
(いけない……こんな顔をしていたら皆を心配させてしまうな)
ルリカは努めて表情を朗らかにし、引き戸に手を掛ける。
「やあ、どうしたんだこんな時間に――」
そこで目にしたのは。
惨状。
惨劇の異状。
「お、おい! しっかりしろ! 何があった⁉」
ルリカはすぐさま近くの者に駆け寄る。
惨いものだった。
頭から床に叩き落とされ逆さ足を晒している。
意識こそないが、それでも命に別状がないのは緋ノ巫女の頑強な身体あってこそだ。
周りを見れば同様の目に遭った者が沢山いる。
さながら室内は逆さ足の森。
緋袴が捲れ、白衣や襦袢はおろか、下着まで剥き出しである。
――とても見ていられない。
「気がついたか⁉」
何故だか。
教室の後ろに三人が隔離されていた。
この三人だけは逆さ足ではない。
もっとひどい、ボロ雑巾のような状態である。
しかも。
今、意識を取り戻したばかりの一人は、どういう訳か耳まで顔を朱に染めていた。
〝松〟である。
「り、凛堂、さん……!」
〝松〟は乱れた白衣から覗く肩を上下させ、息も絶え絶えに言う。
「アイツ、が……神越、が――!」




