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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第肆話 不和と調和

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05

(あはは、いい気味……!)

 

 肩を落とし短く溜息を()くヒミコを見て、松竹梅の三人娘は胸を(はず)ませた。

 

 言うまでもなく、主犯はこの三人である。

 

 他の女子は迷彩(カムフラージュ)かつ援軍でもあった。

 

 古来、女とは集団の生き物である。

 

 数こそが正義であり、同調は生きるために必要不可欠な(すべ)だ。

 

 これだけの数が揃えば、如何(いか)なあの女とてそう易々(やすやす)と我を貫き通せまい。

 

「……アタシの鞄が、ねーんだけど」

 

 事実、その声は随分と意気消沈していた。

 

「あと棚が壊されてんな……誰がやったんだ?」

 

 それに反し、女子軍はますますクスクス笑いを大きくし、四方八方からでまかせを飛ばす。

 

「えー、知らなーい」

「わからなーい」

「あ、そういえばさっきあやしい黒づくめの男がいたよ!」

「ぷっ、ちょっと。いくらなんでも適当すぎでしょ。男がヒモロギに入れるワケないじゃん」

「あ、そっか。あはははは」

「ふふ、でもわかんないよー? もしかしたらほんとに変なのがいたりして」

「きっとそれだよ! あーあ、神越(カミコシ)さんの鞄、ソイツに取られちゃったんだー。かわいそー」

「あははははははは」

 

「……ああ、そうかよ」

 

 とうとう心が折れたのかもしれない。

 

 ヒミコは何やら床に向かってブツブツと呟いた後、(きびす)を返し引き戸に手をかけた。

 

(はん、調子に乗ってっからこうなるんだよ)

 

〝松〟は思わずほくそ笑む。

 

 だが、

 

「……ここは雪山だ」

 

 ヒミコの行動は予想とは大きく異なった。

 

 ガラガラピシャリ。引き戸を閉じる。

 

 ()()()()()()()()()

 

「雪山の、山荘だ」

 

 ペタリ。引き戸に何かを貼りつけた。

 

「外は十年に一度の大吹雪。山を下りるなんざぁ正気じゃねー。自殺行為だ」

 

 (すみ)やかに引き返し、窓の方へ。

 

「そんな中、お前らは運よく山荘に辿り着いた。よかったな」

 

 ガラガラピシャリ。窓を閉じる。

 

「でもいいことばかりが人生じゃねえ。お前らん中に一人、ガチガチの狂人がいたんだ」

 

 ペタリ。窓に何かを貼りつけた。

 

「こんな絶好の機会を逃すはずもねー。目指すは皆殺しだ。ソイツは早速、ウキウキで一人殺す」

 

 次の窓へ。

 

「お前らはその死体を見つけた。見つけて、しまった」

 

 ガラガラピシャリ。ペタリ。変わらぬ行動。

 

「でも誰が犯人かわからねー。狂人は、お前らの中で一緒に怯えたふりをしてやがんだ」

 

(アレってもしかして――)この時になってようやく〝松〟が気づく。(〝閉縛符(ヘイバクフ)〟……?)

 

 閉縛符。御札(オフダ)の一種だ。

 

 緋ノ巫女が霊力を込め作動させることで特殊な力場を形成し、その通路の出入りを封鎖する。

 

「……さて、どーする?」

 

〝松〟だけではない。〝竹〟も〝梅〟も、その他大勢の女子も、この時になってようやく気づいた。

 

 自分たちが()()()()()()()()()()ことに。

 

「は、はぁ? どうするって、何が。アンタ何言ってんの?」勇敢にも〝松〟がヒミコに問い(ただ)した。

 

「文字通りの意味に決まってんだろ」ヒミコが黒板の前をウロウロしながら応える。「どーするよお前ら、もしそういう状況になったら」あたかもそれは、生徒の答えを粘り強く待つ教師のようだった。

 

「そんなの……」〝竹〟が戸惑いを隠し切れずに言う。「見つけるしかないでしょ。ソイツを。じゃないとみんな殺されちゃうんだから」

 

「そう、命は大切だからな。自分を守るべきだ。アタシだってそーする。誰だってそーする」

 

 でも、どうやってだ――ヒミコが全員に再度問いかける。

 

 今や教室は静まり返っていた。ヒグラシの鳴き声が遠くに聞こえる。

 

「あ、あのね神越(カミコシ)さん」顔だけは誠実そうな〝梅〟が()()ずと切り出した。「もう、帰してくれないかな。これ閉縛符でしょ? 神越さんが解除してくれないと、わたしたち出られないよ」

 

「おいおいおいおいおいおいおい」ヒミコは大げさに首を横に振る。「いーじゃねえか。少しくらい。アタシにつきあってくれよ。遊ぼうぜ。アタシさ、憧れだったんだよね。こういう風に、みんなで集まって遊ぶのがさぁ……」

 

「で、でも遊ぶっていったいどう――」

 

「単純だよ。さっきの質問。アタシは答えを知っている。雪山でどんなやべー狂人と遭遇しても、()()()()()()()()、ただ一つの方法をな」

 

 ソレをさぁ、あててみてくれよ――ヒミコは薄く笑った。

 

「そしたらすぐにでもここから出してやるよ。もちろん、全員一緒にな。一人でも答えられればいいんだ。楽勝だろ?」

 

「つまり犯人を見つけろってこと……?」

 

「ん、まあ……そうだな。それでもいいよ。絶対に生き残れるって言い切れるんならな」

 

「なら簡単っしょ」若干持ち直した〝竹〟が希望を見出したかのように言った。「みんなで見つければいいんだよ。その犯人を。協力してさ」

 

「だから、どうやってだ?」

 

「そんなの……少しずつ証拠とかを積み上げてってさ……その内に誰が可能で誰が不可能とかわかって――」

 

「探偵ものの定番だな」ヒミコが溜息と共に首を振った。「その間に何人殺されんだよ。アタシがその内の一人になったらどーしてくれんだ、ああ? 生き残れねーじゃねぇか。却下だ却下」

 

「じゃ、じゃあさ」続けて〝梅〟。「部屋に閉じ籠って、絶対に誰とも合わないようにするとか――」

 

「またしてもド定番じゃねーか。お約束だろ、そーいうヤツから殺されてくのは。少なくともアタシが犯人なら真っ先にソイツを狙う。だから生き残れねー。やっぱり却下だ」

 

 何故だろう。

 

 空気が重い。

 

 それになんだか……少しずつ、()()()()()()()()()()()()気がする。

 

「な、ならさ――」〝松〟が自分を鼓舞(こぶ)するかの如く立ち上がった。「みんなでいればいいじゃん! そうだよ、コレだよコレ! みんなで一緒にずっといれば、ソイツだって何もできやしないんだから――」

 

「んなのできるはずねーだろ。風呂はどーする。(かわや)もだ。みんなで一緒に入ってみんなで出すのか、ええ? 人間ってぇのはな、本質的に一人で成立してんだよ。そんくらいわかれ。言うまでもなく却下だ」

 

「じゃあどーすればいいってのさ⁉」とうとう〝松〟が声を張り上げた。「アレも駄目、コレも駄目って、アンタ何様のつもりなの! そんなに言うなら、アンタの答えを言ってみなよ!」

 

「へぇ――」

 

 ヒミコはゆっくりと〝松〟を見返す。

 

 まるで〝その言葉を待っていた〟とでもばかりに。

 

「いいのか、もう言っちゃって。先に断っておくが、アンタらが答えを見つけられなかった以上、アタシはこれから()()をやるつもりだぞ。アタシの鞄を盗んだクソ女を見つけるためにな」

 

「い、いいよ。好きにしなよ」

 

「そうかい。わかったよ、ありがとな」

 

 じゃあ正解発表だ――ヒミコは教壇に立ち、言った。

 

「先にぶっ殺しちまえばいいんだよ、自分以外の全員をな」

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