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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第壱話 解き放たれた少女
4/65

04

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 (トウ)ノ月、()ノ週、()ノ日 深夜

 /()(ミヤ)郊外 三曾木(ミソギ)隧道(トンネル)内 第二車道

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「……アタシをどこに連れてこうってんだ」

 

「あら、気がついたのね」

 

 薄ぼんやりとした夜光灯がとんでもない速さ(スピード)で次から次へと後ろに流れゆく。まるで死に急ぐ人魂が列を()し行進しているかのようだ。

 

 ――どこぞの隧道(トンネル)。自分は車の中にいて助手席に座らされている。

 

 そこまで理解した時、ヒミコにはいくつかの選択肢があったが……結局どれも保留にした。

 

「意外ね。てっきり暴れ出すかと思っていたわ」

 

「アンタが敵ならアタシが気を失ってる内に始末するなり豚箱に突き返すなりできたはずだ……でも、アンタはそうしなかった。その理由だけでも聞いておこうと思ってな……それに、」ヒミコがチラリとミヅキの()を見遣る。「身投げみてーなもんだろ。左手一本でこんな馬鹿みてーな【すぴーど】出して運転してるヤツの邪魔なんざ」

 

「フフフ、ちゃんと頭が回るようで安心したわ」

 

「……知らなかったな。帝國巫女の顔とまで言われる局長サマが義手だったなんて」

 

「もう局長ではないと言ったでしょう」

 

「そうだったな……で? ならアンタはいったいアタシをどーしようってんだ」

 

「それも前に言った通りよ。あなたを迎えに来たの」

 

「どこから。どこに」

 

「それは……あ、ちょっと待って」車内時計に目を遣るミヅキ。「……お誕生日おめでとう、神越(カミコシ)さん」ちょうど日付が切り替わった瞬間(タイミング)だった。「本当なら何かお洒落な小道具の一つか二つ【ぷれぜんと】したかったのだけれど……これでも中々忙しい身でね。ごめんなさい、何も用意できてないの」

 

「……どーでもいいよ、んなことは。それより質問に答えろ」

 

「そうそう、私がどこから来て、あなたをどこに連れて行くか。そういう話よね」

 

「ああ」

 

「どちらも同じよ」

 

「……はあ?」

 

「私が来た場所も、あなたがこれから行く場所も」

 

 貴志摩(キシマ)鉱山――ミヅキの口からその名前が出た途端、柳葉のようなヒミコの細眉が吊り上がった。

 

「きっとあなたもずっと行きたかった……いいえ、()()()()()()はずよ。三年前、すべてが始まったあの場所にね」

 

 次の瞬間。ヒミコはミヅキの首筋に手刀を突きつけた。ただの手刀ではない。霊気を纏った緋ノ巫女の手刀だ。その切れ味は名刀に勝るとも劣らない。

 

「あらこわい。運転中は邪魔しないのではなかったの?」

 

「話せ。知っていることをすべて。何一つ隠さずに、だ」

 

「もとよりそのつもりよ……そろそろ【とんねる】を抜ける頃だしね。ちょうどよかったわ」

 

「あ? 何言ってんだ、てめー」

 

「ほら、アレをご覧なさい」

 

 ミヅキは運転席側の窓を(あご)で示す。

 

 そこには。

 

 大地から天高く(そび)え立つ光の壁。

 

 ()()だ。ただし、途方もなく大きい。桁外れに広い。型破りに巨大。

 

 そんな大規模結界が幾重にも展開され、中の様子を窺い知ることはできない。

 

「なんだ、ありゃ……」

 

「貴志摩鉱山。ただしくはその付近一帯ね。ずいぶん変わったでしょ。昔と比べて」

 

「変わったも何もわかんねーよ……中が見えねえんだから。てかあんなに結界を重ねるなんて……馬鹿じゃねぇか? どれだけ金を使えばあんなことできんだよ」

 

「いい指摘ね。毎年の維持費だけでも帝國予算の五【ぱーせんと】は下らないわ。結界を展開した初年度に至ってはその三倍。当時はよく〝大蔵省の役人を殺したくば貴志摩に連れてけ〟なんて言われたものよ」ミヅキはクスクスと笑ってから続ける。「表向きはね、あの崩落事件が原因で地下から瘴気(ショウキ)が噴き出して、それを封ずるために、ということになってるの」

 

「……ってぇことは裏があるんだな」

 

「ええ。残念ながら地下から現れ出たのは瘴気だけでなく――もっと悪質でおぞましくて、考え得る限りおよそ最悪のモノが一緒だったわ。というより、()()が現れたからこそ瘴気も噴き出した、と言った方が正しいかしらね」

 

「………。………………。………………………。」

 

 ――何故だろう。

 

 予感がする。

 

 この三年。待ちに待った瞬間が訪れる。そんな予感が。

 

 ヒミコはミヅキの首筋に突きつけていた手刀を引っ込める。

 

「ああ神越さん。ちょっとそこの引き出しを開けてくれるかしら。ほら、私いま手が塞がってるから」

 

 言われた通りに探ると、中には黒い金属製の装飾を施した橙色の結晶が入っていた。

 

結界石(ケッカイセキ)か……」

 

「使い方は知ってる?」

 

「馬鹿にすんなよ。霊気を込めればいいだけだろ」

 

「じゃあお願い」

 

 ヒミコは助手席側の窓を開け、片手を出し結界石を(かか)げる。

 

 車は光の壁――結界に向かい全速力で直進していた。ヒミコは自分でも不思議くらいそれを受け入れている。

 

 結界との衝突の寸前、ヒミコが結界石に緋色の霊気を注入すると、光の壁は左右から力尽くで引っ張られたように変形し、中央に裂け目が現れた。

 

 続けざまに何重にも渡って結界が割れ、通り過ぎると同時に閉じて行く。

 

 そして。

 

 最後の結界を突破した。

 

 すぐさまヒミコが目を()らし中の様子を窺うと――そこは()()

 

「……はは、」

 

 あちこちで巫術の光と音が飛び交っていた。

 

「ははははは、」

 

 見慣れぬ装束を纏った緋ノ巫女たちが、()()()()()と戦っている。

 

「ははははははは――ッ!」

 

 見つけたぞ。とうとう、見つけた。

 

 三年前、仲間を皆殺しにした――――――敵!

 

「 は は は は は は は は は は は ッ ‼ 」

 

 ヒミコは目を見開き、歯を剥き出しにして獰猛(どうもう)に笑う。

 

 そんな彼女を横目に、ミヅキはたおやかに()げた。

 

「〝鬼〟との戦いの最前線……結界封印都市ヒモロギにようこそ、神越さん」

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