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汎用演習場は水を打ったように静まり返っていた。
無理もない。あまりに早い勝負だった。
観衆が息を呑む間もなく展開が動き、最後には瞬く間もなく勝敗がついていた。
大半の者には開始と同時にヒミコを追い詰めていたはずのルリカが、ふと気づくと逆転されていた、としか映っていない。
「……よお、立てるか」
ヒミコがルリカに声をかける。
〝縮空〟で背後を取った後、背中から斬りつけ地上に落としたのだ。
無論、咒牢帯で弱化させた上に元が緋ノ巫女の頑強な身体である。怪我は一つもない。
ただそれでも、
「………。………………。………………………。」
ルリカは茫然自失としていた。
まるで何が起きたか、ややもすればここはどこで自分が誰かすら分かっておらぬように見える。
(まぁ無理もねえか……アタシだって最初アイツにやられた時は唖然としたし)
アイツ。ツクヨミの統括司令官、夜代ミヅキ。
ヒミコの縮空は彼女の見様見真似だった。
技としてはまだまだ粗いが、それでもこうして何も知らぬ相手に不意打ちで繰り出せば、必殺とほぼ同意義である。
「おーい、大丈夫か――」
「~~ッ⁉」
何度目かの呼び掛けでようやくルリカが我に返った。
青い瞳がキョロキョロと辺りを見回し、自分の置かれた状況を、最後にヒミコを捉える。
捉える。いや、そんな生易しいものではない。
一瞬、ほんの一瞬だが、そこに現れた感情は――。
「はっはっは、参ったな!」ルリカは快活に笑いだす。「こうも見事にしてやられるとは!」
「……ん? お、おう」
「いやぁ、すごかったなー! 最後のアレはもしかして縮空かい? 夜代司令が使えるという」
「……ああ、そうだ。つってもただの猿真似に過ぎねーけどな」
「すごい技を見せてくれて光栄だよ! 私もまだまだだな……とにかく今日はありがとう、神越。キミさえよければ是非また手合わせしてくれ」
行ってルリカは起き上がり、爽やかな笑顔と共にその場を後にした。
(……なるほどな。ああいうヤツだったか)
ヒミコは目を細め、ルリカの後ろ姿をしばらく見ていた。




