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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第参話 ヒトのナカ

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09

 気づいた時には、コレである。

 

 よくわからぬが、この青い瞳の少女――凛堂(リンドウ)ルリカと戦うことになっていた。

 

 聴衆を味方につけ勢いづいた松竹梅がその足で直談判(じかだんぱん)に打って出て、それを受けたルリカもどういう訳かろくに事情も訊かぬまま、二つ返事で承諾したのである。

 

 なんで……? 当事者であるはずのヒミコ自身、そう困惑せずにはいられない。

 

「キャー! ルリカ様ー!」

「素敵ですー!」

「こっち向いてー!」

 

 いかにもな黄色い声援があちこちから飛び()う。

 

 本日最後の模擬戦というのもあり、演習場はほとんど芝居小屋じみた熱気に包まれていた。

 

 どうやらルリカは女子の間で相当な人気があるらしく、その反作用と松竹梅の事前工作もあってか、ヒミコはいつの間にやら悪役(ヒール)に仕立て上げられている。

 

 ――もっとも。

 

 そんなことを微塵も気にする女ではなかったが。

 

「……で、どーすんの?」〝うへぇ〟の顔を崩さぬまま、ヒミコがルリカに問いかける。「さっきまでと同じやり方いいのかよ」

 

「ああ、それでよかろう」

 

 規定(ルール)は極めて単純(シンプル)だ。

 

 互いに向き合ったまま一定の距離を取り、合図があり次第始める。

 

 咒牢帯(ジュロウタイ)を巻き弱化させた巫具(ふぐ)で戦って、先に一撃を与えた方が勝ちだ。

 

「では神越(カミコシ)、正々堂々勝負しよう」ルリカが爽やかな笑顔で握手を求めてくる。

 

「………………………ああ」ヒミコはほとんど胸焼けのような顔をして応じた。

 

 どうにも対比の()いた二人である。

 

 さながらカラッと晴れた夏の青空とジメッと湿気(しけ)った梅雨(つゆ)曇天(どんてん)ほどの違いがあった。

 

「では、はじめ!」

 

 そうこうしている内に合図がくる。

 

 両者すかさず動きだした。

 

 ヒミコの得物(えもの)白木(しらき)幣串(へいぐし)紙垂(かみしで)を挟んだ正統派(オーソドックス)御幣(ごへい)である。

 

 対するルリカは百木の長こと(あずさ)の木から作られた梓弓(あずさゆみ)。御幣に劣らず広く普及した標準的な巫具である。

 

 だが――ルリカのそれは一目で知れる特注品。

 

 ()()。ルリカの背丈を優に上回る。

 

 すなわち〝(アズサ)長弓(ナガユミ)〟。

 

(……はっ、どーせ距離を取ろうってんだろ?)

 

 遠距離戦に持ち込む腹に違いない。

 

 そうはさせじとヒミコが前に()ぶ。

 

 しかし、

 

(なに――?)

 

 予想は外れた。

 

 ルリカも同じく()()()()

 

 二倍近い合成速度。

 

 両者の差が一気に縮まった。

 

(そうきたか……!)

 

 ルリカは弓を()るのではなく、背負った矢筒(やづつ)から矢を取り出し上段から下段に斬り掛かってきた。

 

 出鼻を(くじ)かれたヒミコは御幣を横にし受け止める。

 

(けど、もうこれで……逃げらんねーぞ)

 

 接近戦ならこちらが有利だ。

 

 意表を突いた奇策だったが、それだけに崩れれば脆い。

 

 ヒミコがそう思った次の瞬間、

 

(どこだ――⁉)

 

 ()()()()姿()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこまで気づいた時、

 

(……なるほど、な)

 

 敵の居所に見当がついた。

 

 人間の目の構造上、もっとも捉えにくい動き。

 

 それは〝上〟だ。

 

(やってくれるじゃねーか)

 

 ルリカはその場で高く跳躍していたのである。

 

(何重にも練ってきた、ってワケか)

 

 最初に矢で斬り掛かってきたのは、こちらが受け止めることまで見据えてだ。

 

 斬撃が防がれた反作用をそのまま跳躍へ。

 

 言うなればヒミコを踏み台にしたのである。

 

 だからあんなに高く、遠くに()んでいる。

 

 しかも煌々(こうこう)と輝く太陽を背にして。

 

「チッ――」

 

 目が(くら)み視界が覚束(おぼつか)ぬが、ここまでくれば何をしてくるかはすぐ読めた。

 

(……いい腕してんじゃねえか)

 

 天から次々と矢が降り(そそ)ぐ。

 

 最初の一本を間一髪で(かわ)したものの、ヒミコはこれもまた敵の術中と看破(かんぱ)した。

 

 まるで詰将棋が如く考え抜かれた射撃である。

 

 ヒミコの回避行動まで予測して空中から()ているのだ。

 

 少しずつ、少しずつ切り崩し、最後には庇いようのない決定的な隙を生じさせるため。

 

 超がつくほど精密な射撃の冴えあったればこその戦法である。

 

(こりゃ負けたな……)

 

 実際、ヒミコもそう結論づけた。

 

 相手の腕があれば、あと三本も射れば優に自分を仕留められる。

 

 間違いない。玄人(プロ)としての経験と感覚から断言できる

 

 ――ただし、

 

()()()に会ってなけりゃあ、の話だがな)

 

 次の瞬間、ヒミコは〝縮空(シュックウ)〟で空を()けた。

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