08
盛りを過ぎたとはいえ闘ノ月は季節としては夏である。
暑い。
それだけではない。
眩しい。
長年監獄で日陰者をしてきたヒミコにとっては、ほとんど殺人的な陽射しの強さだった。
「あちー……」
だからこうして木陰で休んでいる。
ここは汎用演習場。
高巫では午前と午後のはじめに全学年合同の訓練が課されている。
午前中は集団戦を想定した連携演習だったが、午後からは個人戦に重きを置くようで、平たく言えば組手のような一対一形式の模擬戦闘が実施されていた。
〝妙な所で生真面目〟なヒミコとしては当然参加せざるを得なかったものの、最低限の達成基準に届くや否や早々に切り上げ、こうして休憩に入ったのである。
(……まあ、確かにそこそこ腕は立つよな。どいつもこいつも)
流石は最高水準を掲げるだけはある。
誰を見ても平均的な帝國巫女より上をゆくと思われた。
だが、
(でもなぁ……だからと言ってアタシとやるには……ちょっとキツイよなぁ)
というのが正直な感想である。
これは決して自惚れではない。
率直に言って、ヒミコと彼女たちでは潜り抜けた死線の数が違う。
それも桁違いに。
その違いがそのまま実力の差に直結していた。
実際、先の模擬戦でもヒミコは苦も無く全勝している。
(まあ、中には面白そうなのもいるけど……)
ヒミコは今なお模擬戦に励む青い瞳の少女を見た。
「ねぇ、ちょっとアンタ――」
「あ?」
とその時。不意に声を掛けられ振り向く。
腕を組んだ女子が三人。こちらを見下ろしている。
何やらどことなく――不機嫌そうだ。
「新入りのくせに何もう休んでんの? やめてくんない、そういうの。こっちのやる気まで下がるから」
訂正。間違いなく不機嫌だ。
かてて加えて、めんどくさそうでもある。
「……んなのアタシの勝手だろーが。こっちはもうやることきっちり済ませてんだよ」
ギロリと音がしそうなほど人相悪く睨めつけるヒミコは。
若干、女子三人は怖気づく。
だが、
「つーか誰だお前ら」
ヒミコの悪手で一挙に再燃した。
「はぁ⁉ 信じらんない!」
「何様のつもりなんだよアンタ!」
「さっきわたしたち全員とやったじゃない!」
……? 全員とやった? 何をだ。
あ、模擬戦か。
そういえばこの三人と順々に戦った……気がする。
一〇人を相手にしたのでイマイチ記憶が定かでないが。
「………。………………。………………………。」
ヒミコが若干の気まずさを覚え黙していると、三人はことさら自尊心を傷つけられたらしく、
「へ、へぇー。そう。アタシらのことなんて、これっぽっちも覚えてないってワケ……!」
まず中央の少女が噛みついてきた。
刺々しい態度である。
とりあえずコイツは〝松〟で認識しよう――ヒミコは心の内でそう決めた。
「ホント、ありえないよねコイツ。なんなの。デカイ態度して」
「ふざけてるよね。わたしたちのことを見下してるとしか思えないよ」
なら右と左は〝竹〟と〝梅〟でいいか。
「……で? だからなんなんだよお前ら。アタシに用でもあんのか?」
そこから先は売り言葉に買い言葉。
悪いことに松竹梅の三人娘は女子としてはかなりの腕利きで、それすなわち欠陥品のヒミコとは天と地の差である。いつの間にやらその他大勢の女子を巻き込んできた上、非はヒミコにあるとする論調を言葉巧みに展開していた。
で。
そうこうしている内に、気づいた時には――




