表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第参話 ヒトのナカ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/154

06

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 地下格納庫

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 そこは本部の最下層。

 

 機械仕掛けの巫女が眠る地下格納庫である。

 

「「………。………………。………………………。」」

 

 黙したまま昇降機から出る二人。

 

 緊迫した面持ちである。先までの(なご)やかな空気は雲散霧消(うんさんむしょう)していた。

 

「すごい……」ミヅキが〈アマテラス〉を見て呟く。「あれからまだ一週間しか()ってないのに、こうも直っているだなんて……」

 

「何を言ってるんだミヅキ。一週間どころか(マガ)()(オニ)と戦った次の日にはコイツはもう完全に修復していたよ。こちらが何をするワケでもなく、(ひと)りでに、な」

 

「自己修復ということ? そんな機能まで持っていたのね……」

 

「おかげでウチの技術者たちに無茶な仕事を回さず済んだよ」ふとシマメが舌打ちする。「ほら、話してるすぐそばからこれだ。危ないぞミヅキ、下がってくれ」

 

〈アマテラス〉が突如として動きだした。

 

 動き。いや違う。これはもっと稚拙(ちせつ)なものだ。出鱈目(デタラメ)に筋肉が収縮し、骨格が(きし)んで悲鳴を上げている。

 

 傍から見れば〝暴走〟以外に言葉が見つからない。

 

「ちゃんと束縛できているみたいね……」

 

 だからこうして封印が必要となる。

 

 手足に巻きついた幾重もの注連縄(しめなわ)、装甲に貼られた御札(おふだ)。それらはすべて〈アマテラス〉を抑えつけるために他ならない。

 

(三年前、黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)のほとりから発見されて以来、()()はずっとこうだったわ……なのに、)ミヅキの背筋に冷たいものが走る。(ヒミコがヒモロギに来た途端、自らの意思で行動を始めた……。まるであの子を守るみたいに……)

 

 結果として、すべてが〝お()げ〟の通りに事が運んでいる。

 

 ミヅキはその事実に不信感を覚えずにはいられない。

 

(ううん、それだけじゃない……。この間の禍ツ忌ノ鬼との戦い……アレはいったい何をしていたの?)

 

 今も目に焼きつき離れぬあのおぞましい光景。

 

 端的に言えば〝〈アマテラス〉が鬼を喰っていた〟それ以外に言いようがない。

 

 ヒミコの回復後に探りを入れてみたものの、彼女も一種の変性意識(トランス)状態にあったらしく、何故あんなことをしたのか、そもそも自分の意志だったかすら(さだ)かではない、とのことだった。

 

 謎は深まるばかりである――。

 

「わからないことだらけだけれど……」ミヅキは躊躇(ためら)いつつ言う。「それでも、禍ツ忌ノ鬼に対抗するにはコレに頼らざるを得ない……結局は〝背に腹は代えられない〟ということね」

 

「人生の真理だな……人間はいつだって手にした札で最善を尽くすしかない」そこまで言ってからシマメはふと明るい声色(こわいろ)を作った。「だがミヅキ、これが大きな前進であるのは事実だよ。何せこの三年間、誰が、どうやったって動かなかったものがとうとう動いたんだからな」

 

「そう、ね……」ミヅキがシマメを見遣る。「もっとも、結果として()()()()()には申し訳ないことになってしまったけれど……」

 

 ヒモロギでの高等巫術学校設立には、鬼との戦い以外にもう一つ隠された目的があった。

 

〈アマテラス〉の操者選定である。

 

 当時はヒミコに関するお告げがまだ出ておらず、ミヅキらは血眼(ちまなこ)になって候補者を探していた。

 

 そこで白羽(しらは)が立ったのが巫術学校卒業者、中でも取り分け腕利きの少女たちである。

 

 霊素の分泌周期の関係上、緋ノ巫女の力の最盛期(ピーク)は第二次性徴期が終わりを迎える一七歳頃というのが定説だ。それより年嵩(としかさ)で名を馳せる巫女たちは皆、(おとろ)えた力を経験や知識、技で(おぎ)っているに過ぎない。

 

 ツクヨミは〈アマテラス〉操者として、その最も輝きに満ちた時期にある少女たちに狙いを定めたのである。

 

 だが結果は、

 

「あのルリカでもダメだった時点で、察するべきだったわね……」

 

 悲惨なものだった。

 

 高巫(高等巫術学校)在籍者の中でも()りすぐり――すなわち|至高の最高水準《ベスト・オヴ・ザ・ベスト・オヴ・ザ・ベスト》――の巫女たちが、これまでに幾度となく〈アマテラス〉に接触している。

 

 だが返ってきた反応はただ一つ。

 

〝拒絶〟だ。

 

「高巫の子らの間じゃ噂になってたみたいだぞ。なんでも〝本当に(ひい)でた巫女には特別なお声がけがある〟とか。多分、搭乗試験に協力してくれた子たちが漏らしてしまったんだろうな……」

 

「それは元より覚悟の上よ。人の口に――ましてや女の口に戸が立てられるはずないもの。外部に漏らさなかっただけ、分別があったと思わないと」

 

「ま、そう言われればそうか」

 

「それにあの子たちが協力してくれたおかげで、少しずつ――氷山の一角みたいなほんの少しずつだけど、〈アマテラス〉の【でーた】が取れたんじゃない。今の改良型結界柱にしたって、〈ウズメ〉にしたって、すべてはその恩恵あったればこそよ」

 

 あ、そういえば――ミヅキはふと話題を変える。

 

「〈ウズメ〉の方はどう? 修理はできているのかしら」

 

「順調だよ。この分なら来週頭までには稼働にもっていけるだろう……とは言っても、その実は修理というより〝造り直し〟の方が近いがな。二号機建造のために確保していた予備部品の大半を使い果たしたよ」

 

「そう……となるとユイナに()ノ国へ出向して貰ったのは、結果的にちょうど良かったわね」

 

「ああ。()ノ国々の技術を取り入れた新型機……私も目にするのが楽しみだ」

 

「元・研究者の血が騒ぐ、ということかしら」

 

「失敬な。私は巫術研時代から変わらず現役のつもりだよ。お前から身に余る重責を押しつけられてなければ、今すぐにでもまた研究室で籠りっきりになりたいくらいさ」

 

「フフフ、私がそう簡単に手放すものですか。あなたみたいな優秀な人を」

 

「……おだてたって今日はもうこれ以上しないからな。お前の仕事は」

 

「あら、バレちゃった」

 

 ミヅキは少女のようにあどけなくケラケラと笑う。

 

 だがすぐに真剣な顔つきに戻った。

 

「話を戻しましょう。〈アマテラス〉が禍ツ忌ノ鬼に掛かりっ切りになる以上、今後も大型鬼の対処は〈ウズメ〉がするのが望ましいわ」

 

「そうだな。個人で大型鬼を相手取るなんて、それこそミヅキ並に腕が立つヤツじゃないと出来やしない」

 

「〈ウズメ〉用の装備の開発は進んでいるかしら?」

 

「ああ、〈アマテラス〉の分と合わせて順調だよ。前々からルリカ向けに調整してた装備もそろそろ仕上がる。昨日、本人にも試して貰ったが反応は上々だったよ」

 

「……()()()、どうだった?」

 

「ん? ルリカのことか? 別段変わりはなかったぞ。礼儀正しい、しっかり者だ。いつも通りだよ」

 

「そう、ならいいのだけれど……」

 

「どうしたんだミヅキ。浮かない顔して」

 

「いえ、ちょっとね」

 

 凛堂(リンドウ)ルリカ。

 

 精鋭揃いの高巫の中でも一際(ひときわ)抜きんでた優秀な少女である。

 

 これまでに〈アマテラス〉の搭乗試験に最も協力してくれたのも彼女だ。

 

 ――だからこそ。

 

 ミヅキは()()()ルリカに対し、一抹(いちまつ)の不安を覚えずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ