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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第参話 ヒトのナカ

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29/153

05

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

(三日前)

 (トウ)ノ月、(ニン)ノ週、(シュン)ノ日 午後

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 昇降機(エレヴェイタ)

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「ごめんなさい、シマメ! 待ったかしら?」

 

「いや、私も今来たとこだよ。ついさっきまで事務仕事に追われててな」

 

「もしかして、例の追加予算の申請? 大蔵省宛ての」

 

「ああ。半ば形骸(けいがい)化してるとはいえ、それでも規則は規則だからな。やらねばなるまいよ」

 

「あ、あのぅ……シマメぇ」ミヅキが若干わざとらしく()()ずと切り出す。「物は相談なのだけれど、それならついでに――」

 

「わかってる」シマメは〝やれやれ〟とばかりに首を振った。「ミヅキの方で止まってた書類も作っておいた。後で秘書官から受け取ってくれ」

 

「さっすが! やっぱり持つべきものは友達ね」

 

「よく言うよ、まったく……さ、それよりそろそろ行こうか」

 

 シマメが昇降機の呼び出し(ボタン)を押す。既に(かご)はこの階に来ていた。すぐに扉が開く。

 

 最初にミヅキが、続いてシマメが中に入り階を指定する。

 

 扉が閉まり、籠が下へ下へと降りて行った。

 

「それで?」シマメが壁を背にミヅキへ振り返る。「ヒミコはどうだったんだ。特に学校の件。了承してくれたのか」

 

「ええ、もうばっちり」ミヅキは可笑(おか)しそうにシマメの肩をパシパシたたく。「あの子ったらやっぱり最初はイヤがってたけれど、契約書を見せたら見る見る内に顔色変えるんですもの。まるで活動写真(カツドウ)に出てくる役者さんみたいだったわ。それがもう、おかしくっておかしくて」

 

「やっぱりそうか」シマメも釣られてフッと笑った。だがすぐに浮かぬ顔となる。「……ヨウコに育てられただけあるな」

 

「そう、ね……」ミヅキも同様だった。

 

 夜代(ヤシロ)ミヅキ、矢車(ヤグルマ)シマメ、黒麻(クロアサ)ヨウコ。

 

 三人は巫術学校の同期生として若かりし日々の思い出を共にする仲だった。

 

「あの子……ちょっと似てるのよね、ヨウコに……。ううん、というより、無理に意識してヨウコになろうとしている……」

 

「そうなのか? 私はまだ直接会ってないから知らないが」

 

「そうなのよ。気持ちはわかるけれど……でもそれって、不健全よね。どんなにがんばっても、あの子はあの子にしかなれないのだもの」

 

「まぁ、な……」重い空気を(いと)ってか、急にシマメは声色を変えた。「だからミヅキはあんなに構ってるんだろ。ヒミコのこと。まるで自分の娘みたいに」

 

「え? そうかしら」

 

「そうだとも……あーあ、きっとサツキちゃん(ねた)むぞー。このことを知ったら」

 

「だ、大丈夫よサツキは! ヒカルさんがちゃんと面倒見てくれているし、私だって可能な限り時間を作って会いに行ってるもの!」

 

 三年前、貴志摩(キシマ)鉱山の崩落で黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)が出現して以来、ここら一帯では()え間なく瘴気(ショウキ)が噴出していた。結界展開の目的の一つは、外部への瘴気流出を防ぐためでもある。

 

 そういった事情(ゆえ)にヒモロギ内へ入れるのは瘴気に抵抗力を持つ緋ノ巫女だけであり、それは必然的に家族の生活様式をも大きく変えていた。

 

「冗談だよ」言ってシマメは口元を(ゆる)める。「ミヅキがどれだけ旦那と子どもを大事にしてるかは、私が一番よく知っている……帰省前になるといっつも溜まった仕事を肩代わりさせられてる私が、な」

 

「うぐぅ」ミヅキが固まった。「それは、その、本当に……申し訳ないというか、なんというか」

 

「はははっ」シマメは今度こそ大口を()け笑う。「これも冗談だ。心配するなよミヅキ。私が好きでやってることなんだから。気にすることはないさ」

 

「そ、そうかしら……?」

 

 ミヅキは密かに冷たい汗を()いた。

 

 口では冗談と言ってるものの、半分くらいは本気の愚痴だった気がする。

 

 ……今度からはもうちょっと気をつけよう。

 

「ん、()いたな」

 

 昇降機が止まり、扉が開いた。

 

 そこは――、

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