03
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(三日前)
闘ノ月、忍ノ週、俊ノ日 正午
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部
医療棟 玄関
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「はぁ? 学校だぁ――?」
〝何言ってんのコイツ〟みたいな顔をしてヒミコはミヅキを睨めつけた。
「ええ、そうよ」だが柳に風、暖簾に腕押し。「楽しそうでしょ?」ミヅキはニコニコと笑いながら頷くのみ。
元々は今日でようやく治療と検査が終わり、ミヅキに車で宿舎まで送って貰う予定だった。
だがその最中、思わぬ話が飛び出したのである。
「いやいやいやいや。アタシが今さら。行ったってしょーがねえだろ、学校なんざ」
ヒミコの弁にも一理あった。
大緋帝國には巫術管理省の付属機関として〝巫術学校〟なる巫女養成所が存在する。
入学許可年齢は一三歳からで、計二年間の教育課程だ。世間一般で〝狭き門〟として知られる帝國巫女の大多数は、この巫術学校の卒業者で占められる。
例外はごく少数だ。しかし、そのごく少数の一つが、
「アタシは一〇歳の頃から肆番隊で仕事をしてたんだぞ?」
ヒミコなのである。
あまりに異例尽くしの人事故に、書類上では〝見習い〟の但し書きがついていたものの、実際には他の隊員と遜色ない働きをしていた。
「今さらねーだろ。学校でやんなきゃならねーことなんざよぉ」
尾沼崎特異指定監獄所で三年の空白を挟んだとはいえ、その実力に一切の翳りなきことは先日の戦いで証明済みだ。
ヒミコの主張は無理からぬものである。
ミヅキですら、そこに異を唱える気はさらさらない。
――そう、戦闘面に関しては。
「じゃあヒミコ。【くいず】を出すわね」
「は?」
「〝魂〟と〝魄〟、どちらが陽でどちらが陰?」
ヒミコの顔が曇り出す。
「〝太陽〟と〝月〟、〝男〟と〝女〟、〝左〟と〝右〟では?」
ヒミコの顔が凍りつく。
「〝天ノ逆鉾〟とは紀元前何年頃の話? そもそもそれで世界がどう変わった?」
ヒミコの頭が短絡した。
心なしか目が死んでいる。
「フフフ」ミヅキが悪戯っぽい笑みを浮かべた。「と、いうことよ。ほらあるじゃないヒミコ。あなたにも、学ばなきゃならないことが沢山」
「ちょ、ちょっと待てよ!」ヒミコの目が息を吹き返した。「んなのどれも取るに足らねー〝お勉強〟の話だろ⁉」
「ええそうよ。でも、その〝取るに足らないこと〟すら知らないのが今のアナタというワケ」
「な……⁉」
「それにね、一口に学校と言ってもただの学校ではないのよ?」
高等巫術学校。
ミヅキの話ではそういう名称がついているらしい。
表向きは巫術学校よりさらに進んだ内容を各分野の専門家が直々に教授し、将来帝國の骨格となるべき最高水準の巫女を養成する、という名目とのことだ。
「まあ、これも嘘ではないのだけれどね。実際、そういう講義も設置されているのだし」ミヅキが苦笑を漏らす。「でも、真の目的は鬼との戦いよ。一日の大半はそのための戦闘訓練に費やしているわ」
なお、この高等巫術学校。現在は試験運用中のため機密扱いであり、実態を知るのは関係者のみだ。
然る事情により、鬼に纏わる情報は一切が徹底的に統制されている。
「楽しいと思うわよ? アナタと同年代の子ばかりだし。それに座学についても心配しなくていいわ。アナタ専用に特別な【かりきゅらむ】を組んで貰ったから」
「……そういう話じゃなくってよぉ」
「あら。じゃあどういう話なの、ヒミコ?」
ヒミコ。ツクヨミへの正式所属手続きを済ませて以来、ミヅキは自分を親し気にそう呼んでくる。
なんでも〝これから一緒に戦う仲間なのだから〟とのことだ。
(仲間、か……)
ヒミコは緋色の目を伏せた。
元々、群れるのはあまり好きじゃない。
――というより。
好きだった群れは、もうなくなってしまった。
「……悪いけどよぉ」ヒミコはミヅキを見返した。「その話、やっぱり断るわ。そういうの向いてねえからな、アタシ」
「……そうなの?」
「ああ。訓練ならアタシ一人でも出来るんだし」
「でもねえ、ヒミコ――」
ミヅキは困り眉になって何やら意味ありげに俯く。
「おいおい、やめてくれよ。んな顔すんのは。アタシが悪いみてーじゃねえか」
「いえ、そういうことではないのよ」
「ん?」
よく見れば。
ミヅキはただ俯いていたのではない。洒落た手提鞄の中をごそごそと探っていた。
「あ、あったあった」そうして見つけた書類をヒミコに手渡す。「はい、コレ。読んでみて」
「契約書……?」
そう、契約書である。医療棟にいた間、ミヅキに求められ作成し提出したものだ。
こういう書類のご多分に漏れず、頭が痛くなるようなわかり辛い文面で細かな字が綿々と並ぶ。
ミヅキは天女のような微笑みを浮かべ、その中のとある一文を指差した。
「ほら。あるでしょここに? 〝契約者が満一八歳未満の場合、高等巫術学校への所属を義務付ける〟って」




