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闘ノ月、恩ノ週、備ノ日 早朝
/結界封印都市ヒモロギ
平越宿舎 三号棟 四階 四〇七室
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凛堂ルリカは目を覚ますと同時に枕元の時計に手を遣った。
そのまま背面のつまみを引き、まだ鳴りもしてない目覚ましを切る。
毎朝この調子だ。
ルリカには物心ついた時からこの方、誰かに起こされたという記憶がない。いつも自然に目が覚める。
〝春眠暁を覚えず〟などとよく聞くが、まったく同意できない。
春でも夏でも秋でも冬でも、彼女の目蓋は決まった時間になれば必ず、酒蒸しにされた蛤仔の如くパッチリと開くのだ。
ではそんなルリカが何故、毎晩律儀に発条を巻いて目覚ましを設定しているかというと、その答えは単純。
人からの贈り物だからだ。
貰った以上は、使わねば申し訳が立たない。
例えそれが無用の長物でも。
(……時計としてはちゃんと役に立ってるし、【でざいん】だって可愛くて好きだ。だから、問題ない)
どこか気まずげな顔をして自分に言い聞かせる。そこまで含めてが彼女の朝の習慣だった。
(もう、外して大丈夫だな)
寝巻を脱いだルリカが均整の取れた肢体に巻きついていた包帯を解く。しなやかで適度に筋肉のついた身体。やや色素の抜けた傷跡が目に留まる以外は至って健康そのものだ。
二週間前、生死の境を彷徨っていたとは到底思えない。
常軌を逸した回復力。これもまた緋ノ巫女の特徴の一つであった。
(次は負けない……。負けたくない……っ!)
姿見に映った己自身を睨めつけるルリカ。
その青い瞳に焼きつき離れぬのは……禍ツ忌ノ鬼。
自分に与えられた機体を瞬く間に大破せしめた憎き鬼。
――そして。
その鬼を討った〈アマテラス〉。
機械仕掛けの巫女。
(……もう行こう)
ルリカはツクヨミから配給された巫女装束に袖を通す。
帝國巫女のそれとはかなり異なる意匠だ。分類上では同じ白衣と緋袴だが、帯や袖、裾などの方々に細かな違いが散見する。
その上、ツクヨミの巫女装束には満月とそこから降り立つ橋の刺繍が入っていた。
まるで、彼女らの崇める神を地上へと誘うかのように――。




