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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第弐話 そうやって、生きていく

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24/156

11

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

(現在)

 (トウ)ノ月、(ニン)ノ週、(ジン)ノ日 朝

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部

  医療棟 特別治療室

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 ヒミコは呆気(あっけ)に取られていた。

 

 ミヅキの話。信じられない。信じたくもない。

 

 だが――覚えている。

 

 いや、()()()()()

 

 (かすみ)のように朧気(おぼろげ)な記憶だが……確かに起こったことである。

 

 アレは。

 

 夢ではなかった。

 

「……わからねーな」ヒミコが長い黒髪をガシガシと()(むし)る。「あのでけー人形……〈アマテラス〉だっけか。なんなんだよ、ありゃいったい」

 

「ごめんなさい――」ミヅキが視線を畳に落とした。「私にも、わかっていることはほとんどないの……ああ、そんな顔しないで神越(カミコシ)さん。本当のことよ」

 

「そうはいってもよォ……」

 

「私だって、知っているのはほんのわずかだわ。アレが唯一、(マガ)()(オニ)に対抗し得る力を持つこと。そしてその力は神越さん、あなたでなければ引き出せないということ」

 

 それだけなのよ――繊細(かぼそ)く消え入りそうな声で呟くミヅキ。

 

 嘘を()いてるようには見えない。よしんば万に一つ嘘だったとしても、この水準(レヴェル)で虚偽を通せる相手にこれ以上の駆け引きを仕掛けるのは難しかろう。

 

 今は引き下がるより他ない。

 

「……んで?」ヒミコは話題を切り上げ、部屋の片隅へと視線を移した。「話はそれだけじゃないんだろ」

 

 部屋の片隅。先ほどから白い少女が微動だにせず膝を抱え(うつむ)いている。

 

 ミヅキは我が意を得たりとばかりに大きく頷いた。

 

「ええ、実はそうなの。あなたの今後についてなのだけれど――」

 

 そこからは(おおむ)ね予想通りの話だった。

 

 これからもヒモロギで力を貸して欲しい。正式に自分の組織(ツクヨミ)所属の巫女となって欲しい。必要の際には〈アマテラス〉に乗り鬼と戦って欲しい。

 

 そんなところだ。

 

 しかし、白い少女についての言及は一切ない。

 

「――ということだから、いずれ手続きの書類とかを渡すわね。それじゃ、お大事に」

 

 あろうことかミヅキはそう締め括るや否や立ち上がり、部屋を後にしようとした。

 

「おいっ」流石(さすが)のヒミコも面食らった様子で引き留める。「おいおいおいおいおい。何考えてんだよアンタ。あるだろーが、もっと。話さなきゃならねーことが」

 

 誰なんだよ、ソイツはいったい――ヒミコは困惑顔で白い少女の方を目で示す。 

 

「ソイツ……? 誰のことを言っているの」

 

「いるじゃねーか。そこに。陰気くせー顔した妙なガキが」

 

「……?」

 

 ミヅキが首を傾げながら部屋の片隅、少女の方へと近づいた。

 

「!」

 

 次の瞬間、ミヅキの足が()()()()()()()()()()()

 

「外のことを言っているの? いないわよ、誰も」

 

 ミヅキは暢気(のんき)に窓から半身を出し、キョロキョロと周囲を見回していた。

 

 

 

 ~第弐話 そうやって、生きていく 完~

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