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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第弐話 そうやって、生きていく

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10

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

(四日前)

 (トウ)ノ月、()ノ週、()ノ日 明方(あけがた)

 /結界封印都市ヒモロギ 第六結界柱付近

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 その時――、

 

〈アマテラス〉の()()がひび割れた。

 

 直後、(マガ)()(オニ)の左腕――〝龍蛇(りょうじゃ)〟が、一瞬の内に()()()()()()()()()()()

 

〈アマテラス〉が拘束の内側から()()()()()()()()()()()()()

 

「*************ッ!」

 

 この世のものとは思えぬ咆哮を上げる禍ツ忌ノ鬼。

 

 たちまち左腕が再生した。より太く、長く、(たくま)しい龍蛇へ。

 

 だが次の瞬間には〈アマテラス〉に握り潰される。

 

 左腕だけではない。右腕もだ。

 

 再生と同時に次々と破壊される。

 

 何度も。何度も何度も何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

「欲シイ……」

 

 やがて、とうとう禍ツ忌ノ鬼の再生力が底をついた。

 

 両腕の復活が始まらない。

 

 それを見て取る否や、〈アマテラス〉は鬼の脚を引き千切った。

 

「欲シイ、欲シイ……」

 

 これでもう立っていられない。

 

 禍ツ忌ノ鬼の巨体が大地を背に倒れ込んだ。

 

「欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ――!」

 

 すかさずその上へ(またが)る〈アマテラス〉。

 

 夜明け前の空を(あお)ぎ、天に爪を立てるが如く宙を()(むし)る。

 

 放霊索(ホウレイサク)の留め具が外れ、まるで髪が(ほど)けたかのようだった。

 

 それだけではない。

 

 割れた仮面の下半分が完全に分離し、大口を開いて〝歯〟を剥き出しにする。

 

 ()。そう、間違いなく歯だ。敵を噛み千切り咀嚼するための肉食獣の鋭い歯。

 

 唾液でヌラヌラと光った赤く長い舌まで覗かせている。

 

()()()ガ、欲シイィィィイイィィイイイイィィッ‼」

 

 この時になって、ようやくヒミコは気づいた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

〈アマテラス〉の機胎(キタイ)内で、霊水(レイスイ)肺腑(はいふ)を満たされ発した言葉だと。

 

 気づいた――いや、ちがう。そうではない。もっと受動的な表現(ニュアンス)だ。

 

 はっきりとわかっていることはただ一つ。

 

 今の自分は自分ではない。

 

 あたかも夢の中にいる己を見ているかのようだ。

 

 だって。

 

 ありえない。

 

 あんなに憎くて、醜くて、おぞましくて、恨んでいて、どうしようもなかった鬼が――。

 

 こんなにも。

 

 こんなにも、胸を焦がす程に、焼き尽くす程に――()()()()()()()()なんて。

 

 だから壊したい。

 

 殺したい。

 

「~~ッ!」

 

 ひび割れた仮面の切れ込み(スリット)の奥から、爛々(らんらん)と燃え盛る緋色の眼が光った。

 

「*************ッ‼」

 

 禍ツ忌ノ鬼が悲鳴を上げる。

 

 無理もない。

 

 上に乗り(あや)しく腰をくねらせた〈アマテラス〉が、雨あられのように拳を振り下ろしてきた。

 

 鉄槌が落ちる(たび)、鬼の身体は骨ごと砕かれグチャグチャになる。

 

〈アマテラス〉は嬉々として舌を()わせ、鬼の血肉を()ぎ取った。

 

 血に(まみ)れた長い舌がグチョグチョと音を立て(うごめ)く度、細い肩が上下に激しく動く。まるで果てのない恍惚の中で踊り狂っているかのようだ。

 

 ――やがて。

 

 鬼の身体は徹底的に砕かれ、奪われ、蹂躙(じゅうりん)される。

 

 残すは首のみ。

 

 煌々(こうこう)と輝き膨張した(ヒト)(ツノ)

 

〈アマテラス〉はそこに長い舌をゆっくりと巻きつかせ、味わうように(くわ)え………………()()()()()()()()

 

 直後、鬼のすべての力が解放され爆発が生じた。

 

 辺り一面に飛び散る白濁とした血。

 

 爆発の中心にいた〈アマテラス〉は真っ向からそれを浴びる。

 

 夜明けの太陽が白に染まった緋袴(ひばかま)を照らし出した――。

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