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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 中央管制室
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「ぶっ⁉」ミヅキは思わずお茶を噴き出す。「な、なんて恰好してるんですか先輩⁉」
かつての〝青鬼ランカ〟こと現・衆議院議員の凛堂ランカが、ほとんど半裸さながらの姿でやってきたのだ。
それも何やら妙に満足げな顔をして。
「まあ、色々と……ありましてね」
「い、いったい何が……?」
「端的に言えば些細な親子喧嘩です。よくある話でしょう」
「は、はあ……」
些細な? よくある?
ウソ吐け。それでそんな姿になるワケなかろう。
「ということでミヅキ、頼みがあります。あなたの服を貸して貰えませんか?」
「え、ええ。それは構いませんが……」
「ああ、ですが勘違いしないでくださいね。このことと、あの話とは、また別のことですから……」
あの話。ランカがツクヨミに深い疑惑の眼差しを向けている件だ。
「今回はこういった結果になりましたが、それでも私は諦めません。何度でも、喰らいついてみせますから」
青い瞳に宿る光は一向に衰えていなかった。
きっとその言葉に嘘偽りは毛ほどもないのだろう。
(どうして先輩はこんなに必死になって――――――あっ)
その時になって。
ミヅキはようやく気づいた。
ランカがそうまでして戦う理由。
それは、民意を託された者として――上に立つ者の責任として、というのも勿論あるのだろう。
単に、己の正義が許さぬというのもあるのだろう。
だがそれよりも、何よりも――
(きっと……ルリカのためなのだわ)
そうに違いない。
ランカの立場になれば自明なことだ。
自分の娘を、得体の知れぬ組織で、さらには危険な目に合わせることを良しとする親などいようはずがない。
ミヅキだってそうだ。もしも自分の娘が――サツキがそういった状況に置かれたら、何が何でも戦うだろう。
(やっぱり必要だわ……私たちには、この人が)
あらためてランカを味方に引き入れたい気持ちが込み上げるミヅキ。
だがこの場では勿論無理だ。シマメは既に席を外しているとはいえ、どこに〝影〟の目や耳があると知れない。
それでも、それでも何か、ランカにこちらの腹を伝える方法があれば――
「ミヅキ……ミヅキ?」
「え⁉ あ、ひゃい!」
「……何をぼうっとしているのです。それとも、昔の意趣返しでもしているつもりなのですか?」
「へ? 意趣返し」
「見ればわかるでしょう。こうしてただ立っているだけでも寒いのです。早く、あなたの服を貸して下さい」
「~~!」その時、ミヅキは閃く。「そ、そうでしたね! すみません、さあさあこちらです先輩。来てください」
そうだ、服だ。
服に手紙を忍ばせよう。
ヒモロギを出て、後日返しに来るまでの間に見つけて貰えるよう細工して――。
「……どうしたのです? 急にそんな、意気揚々としだして」
「いや、そんな……やだなあ、先輩。気のせいですよ」
「……何かまだ私に隠しごとをしているようですね」
「え⁉」
「こうなったら夜を徹してでも白状させて――」
「せ、先輩! ちがいます、ちがいますってばぁ!」
結局その後、ミヅキはたっぷり二時間はランカの説教や小言を拝聴する羽目となったが――しかし、その甲斐あってどうにか目的を果たす。
もっとも。
その頃にはすっかりミヅキは涙目になっていたが。
~第拾参話 貫く意志 完~




