26
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
同日 未明
/結界封印都市ヒモロギ 第五結界柱跡地付近
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
(終わった……)
〈ウズメ改〉は矢を放った姿のままで硬直していた。
機体の中でルリカは半ば茫然と描影装置の映像を眺めている。
(暑い……蒸すな、この中は……)
気づけば身体が汗でビショ濡れだった。じっとりと重くなった巫女装束が肌に纏わりつき煩わしい。
(お母さん――)
何故だか記憶が過去へと遡る。
(ああ、そうか……)
ルリカは不思議な納得を覚えた。
この疲労感と達成感。
昔も、そうだった。
尋常小学校に入って以来、途端に厳しくなった母。
でも、その母が年に一度か二度、頑張った自分へのご褒美として連れて行ってくれた場所。
それこそが〝テング屋敷〟である。
だからあの場所は、自分にとって特別だった。
『私とて、娘の成長を受け入れられぬほど狭量ではありません』
ふとその言葉が思い起こされる。
(お母さんは、私を人形としてなんか見ていなかった……いつだって、ちゃんと私を見てくれていた……)
理屈でもなく、論理でもなく、感情が――心がそう受け止めていた。
ルリカが心地の良いあたたかさに浸っていたその時、
『……おい凛堂』不意にヒミコからの通信。『こっから出られねえ。なんとかしてくれ』
見れば〈アマテラス〉は盛大に転倒していた。ちょうど腹ばいになるような形で。
いや、それだけではない。多分あちらも本当にギリギリだったのだろう、四肢の大半が溶解していた。
あれでは自力で起き上がるのは難しいし、機体からの脱出も無理だろう。
「……ふふん、」ルリカは少し遅れて通信を返した。「これで借りがまた一つ――いや二つ増えたな」
『……だいたい、お前がもっと早く戻ってきてくれりゃあ、』
何やらブツブツ言いかけるヒミコ。だがルリカはすかさず畳みかける。
「お、なんだ? ソレが人にモノを頼む時の態度なのか? 随分と変わってるな」
『……はいはい、悪かったよ。助けてくれて感謝してる。だからついでに……もう少し手を貸してくれ』
そこからのルリカはすごかった。
〝むふふ〟と〝えへへ〟の重ね合わせで、引っ切りなしに喋り続ける。
そうしていつまでも、晴れ渡った青空のような笑顔を浮かべていた。




