24
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ 第五結界柱跡地付近
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
(コイツは……ヤバイ、な……っ!)
機械仕掛けの巫女、〈アマテラス〉は窮地に立たされていた。
(この力……無理矢理にでも押し潰しちまおうって腹か……⁉)
周囲は膨大な量の粘液に取り囲まれている。それらが意志を持ち容赦なく押し寄せてくるのだ。
両手から放つ〝天ツ玉垣〟でどうにか耐え凌いでいるものの、少しでも気を抜けば玉垣ごと圧砕されるか、はたまた隙間から粘液が侵入してくるだろう。
(クソ……! あと少しだってぇのに……!)
この分厚い粘液の壁の向こう。そこに鬼はいた。相も変わらず、二つ折りの身体から飛び出た〝龍蛇〟が天へと顎を突き立てている。はっきり言って隙だらけだ。
だがそれでも――手出しはできない。
そうしたが最後、己が粘液に呑まれるのが目に見えているからだ。
(どうすりゃいい……⁉)
そう自問する。ヒミコの中の冷静な部分はすぐさま応えた。
――どうにもならない。この状況は既に詰んでいる。
(ざっけんな――!)
消えかけていた闘志が再び燃え上がった。
だがそれだけでは事態は動かない。
どうしてもあと一手。あと一手が必要なのだ。
(そうすりゃ状況を変えられる……!)
最も単純にして楽な答えは知れている。
だが無理だ。それは不可能だ。
アイツはもう、行ってしまったのだから。
……自分でどうにかするしかない。
できるはずだ。
肆番隊の皆が殺されて以来、いつだってそうしてきた。
〝人間というのは、本質的に一人で成立している〟
不意にその言葉が頭をよぎった。前に自分が誰かに口にしたその言葉。
(そうだ、その通りだ……! だから、だからアタシは――)
〝天ツ玉垣〟の発する緋色の光が強まった。
まるで鉛で出来た重い扉を開くようにして〈アマテラス〉が少しずつ少しずつ、粘液を外側へと押し出していく。
(討つ……! 鬼を、この鬼を……! みんなを殺したこの鬼をっ!)
流れる血のすべてを霊気に変えてでも――敵を殺す!
その瞬間、均衡が完全に崩れた!
(今だっ)
だが――――――愕然とする。
崩れた均衡。
それは〝あちらに〟ではない。
〝こちらに〟だった。
(何……⁉)
龍蛇が、神話の蛇たる龍蛇が――いつの間にかこちらに向いている。
こちらに向かって、粘液を吐き出していた。
(がぁぁあああああぁあああぁぁぁぁッ!)
まるで荒れ狂う濁流に吞まれたかのようである。
粘液がすさまじい圧力を伴い前方から押し寄せてきた。
ヒミコは本能的に玉垣を重ね合わせ、どうにか凌いでみせたが……その様子はさながら風前の灯。瞬く間に掻き消されてしまいそうである。
(ま、まだだ……! まだ、アタシは――――――ぐぅ⁉)
それだけでは終わらない。
今や鬼は、己が放出した粘液のすべてを〈アマテラス〉へ向け集中させていた。
圧力が加速度的に増していく。鬼の周囲の粘液すらこちらに押し寄せ、とうとう木乃伊のような身体が大気に露出しだした――――――その刹那、
『 いいぞ神越。あと一〇秒だけ耐えてくれ 』
通信機を介し、告げられる。
その声は。
もう来ぬと諦めていたソレ。
だがしかし――――――心の奥底ではずっと待ち望んでいたソレ。
「……遅えんだよ、バカ」




