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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第拾参話 貫く意志

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221/226

22

「か、は……!」

 

 (むせ)る。まるで肺の空気が残らず(しぼ)り取られたかのようだ。

 

 周囲は惨憺(さんたん)たる有様である。

 

 かつて車だったモノが散乱し、さらには燃料に引火したらしく路面に轟々(ごうごう)と火が立ち上っていた。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 ルリカは呼吸を整えどうにか立ち上がる。

 

 損傷(ダメージ)は軽くなかった。

 

 無理もあるまい。ランカに霊素循環を()き乱されたあの状況。霊気を防御に回すことなぞまず不可能だった。

 

 それでもこうして五体満足で済んでいるのは、霊糸(れいし)で織られた巫女装束の持つ高い耐衝撃性能のおかげである。

 

「やって……くれましたね……!」

 

 一方、ランカは真逆の状況だった。

 

 彼女が纏っていたのは値こそ張れども防御性能は度外視の異海装(パンツスーツ)(ゆえ)に爆発の衝撃は霊気で防ぐしかない。だが、退役して久しい上に出産を経験しているランカは霊素の分泌が(いちじる)しく減少しており、せいぜい全盛期の一割に届くか否かだ。その心許(こころもと)ない霊気量では必然的に防ぐのにも限界があり、結果、やはりかなりの損傷(ダメージ)を負っている。

 

炸霊石(サクレイセキ)仕込みの御札ですか……? 随分と物騒なモノを持っているのですね」

 

「……人からの貰い物です」

 

 炸霊石。霊気の注入で爆発の指向性を変える霊石だ。御札と組み合わせれば起爆の制御など、高度な操作ができる。

 

 今回使ったのは以前にヒミコとユイナが遊び半分で作ったモノだ。それを〝危ないから〟を理由にルリカが没収しており、宿舎の荷物をまとめる際、万一に備え(ふところ)に忍ばせていたのである。

 

(まさか自分が使うことになるなんて……思ってもみなかった)

 

 ルリカが己の行動を振り返る中、

 

「……それで?」ランカが冷たい声を浴びせてきた。「どうしようというのです、これから」

 

 衣服の大半が爆発で吹き飛び、ほとんど半裸じみた格好である。

 

 それでも全身からメラメラと立ち上る威厳と怒気は、かえって増しているのだから恐ろしい。

 

「……先ほど言った通りです」だがルリカは、「ツクヨミへ、戻ります」一歩も引かなかった。

 

「私が止めても、そうするのですね?」

 

「……はい。たとえ母様と戦うことになっても」

 

 本気である。

 

 先の狭い車内と異なり、今この場なら全力を出せる。

 

 損傷(ダメージ)があるのはお互い様だ。

 

 ならば勝算は、ある。

 

「……そうですか」ランカも同じ結論に着地したのかもしれない。突如、その肢体から力が抜ける。「一応、聞いておきましょう。何故ですか? 何故、あなたがそうまでする必要があるのです」

 

「そ、それは――」ルリカは一瞬口籠(くちごも)ったものの……ややあって、応えた。「仲間が、窮地に追い込まれているからです」ハッキリと、応えた。

 

 仲間。

 

 これまでに幾度も口にしてきたその言葉。

 

 でも今この時だけは、そこに特別な意味が乗っている。

 

 よりにもよって――あの神越(カミコシ)相手に。

 

「……なら、もう仕方がありませんね」ランカはふぅっと息を吐いた。「あなたの好きになさい」

 

「母様……!」

 

 意外だった。

 

 あの母が。こうも簡単に譲歩してくれるなんて――

 

「なんですか、その顔は」

 

「いえ、なんというか、その……驚いてしまって」

 

「私とて、娘の成長を受け入れられぬほど狭量(きょうりょう)ではありません」

 

「……!」

 

「わかったら早く行きなさい。もう時間がないのでしょう」

 

「は、はい!」

 

 言われてルリカは一目散に駆け出した。

 

 その背を青い目で追いながら、ランカがぼそりと呟く。

 

「……気をつけてね、ルリカ」

 

 月だけがそれを聞いていた。

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