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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第拾参話 貫く意志

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「早く止めて下さい!」

 

 とうとうルリカは叫びだした。

 

 自分でも信じ(がた)い状況である。

 

 (ランカ)に対し、こんなことをしているだなんて――

 

「聞こえないのですか⁉ 早く、止めて下さい!」

 

 少しでも気を抜けば手が震えてしまいそうだった。声が、(かす)れてしまいそうだった。

 

 それだけはいけない。

 

 自分はこの人に、()()だと示さねばならぬのだ。

 

「止めてくれないのなら今すぐこの車を――」

 

 破壊します。そう言うつもりだった。

 

 おそらく母はそれでもこちらの要求を呑まぬだろう、と予測しつつ。

 

 だが、

 

「……これでいいのですか」

 

 ()()。ランカは言った通りに車を停めてくれた。

 

 そしてそのまま黒眼鏡(サングラス)を取り、ルリカに静かに語りかける。

 

「……それで? どういうつもりか、話してくれるのですね」

 

 穏やかな口調とは裏腹に爆発せんばかりの怒気が全身から発せられていた。

 

 こんなに怒りを(あらわ)にした母を見るのは初めてである。

 

 ルリカは思わず怖気(おじけ)づきそうになったが――それでも、真っ向から見返す。

 

「私は、ツクヨミに戻ります」母を。母の青い瞳を。「お帰りになるのなら、母様一人でなさって下さい」

 

 そのまま有無を言わさず、車の外へ出るつもりだった。

 

 だが、

 

「……待ちなさい」

 

「~~っ⁉」

 

 次の瞬間、ランカに手を掴まれる。

 

 物凄い力だ。まるで万力で締めつけられたかのようである。

 

「親に向かって、よくもそんな口を……」ランカの目が怒りで轟々(ごうごう)と燃えていた。「私もよくよく(かろ)んじられたものですね」

 

「痛っ、はな――放してください!」

 

「いいえ、放しません。あなたのような聞き分けの悪い子にはお仕置きが必要ですからね」

 

「クッ……! この、いい加減に……!」

 

 ルリカが御幣(ごへい)に霊気を纏わせた――が、その刹那(せつな)、鋭い手刀が()き手に()びせられる。

 

 それもただの手刀ではない。霊気を纏わせた手刀だ。狙いは正確で、ルリカの体内を巡る霊気の流れが一瞬遮断(しゃだん)される。

 

「……まだまだ未熟ですね」

 

 そこから先は息つく暇もなかった。ランカはこちらが手放した御幣を奪い、その上で関節を()めてルリカの上半身を窓硝子(ガラス)へとぐいぐい押しつける。

 

「知っていましたか? ()()に外部から霊気を流されると、体内の霊素循環は簡単に狂うんですよ」

 

 言ってランカはルリカの背中――ちょうど心臓の裏側あたりだろうか――に、御幣の先をぐりぐりと突きつけた。

 

(ち、力が……!)

 

 ()()()()。あたかも首から下が、他人のソレへと()げ替えられてしまったかのようである。

 

 これではせいぜい微量の霊気を練れるか否かであり、拘束から逃れるのはまず不可能だ。

 

「まったく情けない……既に一線を退(しりぞ)いている私にこうもいいようにされるとは」

 

 ランカはそう言うが、これは純然たる経験の差でもある。

 

 開けた場所での真っ向勝負ならルリカに()があっただろうが、狭い車内という限定空間では力を十全に発揮するのは難しい。

 

 ある意味でこれは必然の結末であったし――当のルリカすら、()()()()()()を覚悟していた。

 

 だからルリカは、

 

「ごめん……な、さい」震える声でそう()げる。「ごめん、なさい……母様」

 

「……今さら謝罪ですか。ですがもう遅いですよ。このままあなたを気絶させて――」

 

「 ごめんなさい、母様……()()()()()()()()() 」

 

 この時、ランカが(つね)の冷静さを取り戻していればまず気づけただろう。

 

 ルリカの手。関節を()められ拘束された手とは――()()()

 

 その手が(ふところ)から()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な――⁉」

 

 次の瞬間、御札に注入された微量の霊気が信管となり、()()()()()()()()()

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