16
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
(現在)
同日 深夜
/結界封印都市ヒモロギ 第五結界柱跡地付近
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
(クソが……! ようやく……見えてきやがった)
既に作戦は始まっている。
あれから鬼は浸食の手を一向に緩めず、第六結界柱方面にまで粘液を広げていた。
なのでヒミコは――〈アマテラス〉は、その近くから〝天ツ玉垣〟を展開し、粘液の中を泳ぐようにしてここまで辿り着いたのである。
ここ。粘液に呑まれ溶解した第五結界柱の跡地付近。
鬼を原点とする災厄の源。
「チッ……!」
ヒミコの舌打ちが霊水の中を伝わる。
奇妙な苛立ちだった。
こうして鬼を目にしてヒミコの胸に湧き上がるモノ。それは間違いなく怒りと憎しみだ。かつての仲間を討たれたこの恨み。晴らさずにはいられるか。
だが一方で――そこには確かに別の感情も共存している。
哀れだ。あれらはどうしようもなく哀れなのだ、とする憐憫の思い。
コレは自分のモノではない。ないはずなのに……自分のモノとしか思えない。
そのような矛盾に根差した苛立ちが、まるで真綿で首を締めつけるが如く、じわりじわりとヒミコの心を浸食していくのだった。
(~~ッ⁉ ヤバイ――!)
一瞬、玉垣に僅かな乱れが生じる。
粘液はその隙を見逃さない。ヒビ割れたかのような間隙から一部が這入り込み、腕部の表面装甲を溶かした。
(集中だ……! 集中しろ……!)
意識して霊気を整えるヒミコ。その甲斐あって玉垣は修復し、再度一歩、二歩と鬼に向けて近づいていく。
(まだ遠い。もっとだ……もっと近づかねーと)
結局、この作戦はヒミコ一人で行う運びとなった。
『あなたは私と共にここを発つのですから』
ランカはその言葉の通り、ルリカを連れ去ってしまったのである。
無論、直前までミヅキが猛烈に抗議していたものの、ランカは立て板に水でやれ権利や法律などを並び立て(ヒミコには半分も理解できなかった)、徒労に終わった。
(まあ……仕方がねーことだろ)
ヒミコは最終的にそのような結論に着地している。
最初は何故だか腹が立って仕方がなかった。だがすぐにその理由に気づき愕然とする。
自分はいつの間にか――ルリカを仲間だと思っていたのだ。
だから、そうして何も言わず背を向けられることに強い憤りを覚える。まるで裏切られたかのような喪失感が広がる。
……信じられなかった。自分が、そんな風に変わっていたことが。
ここに来る前は違った。ヒミコにとって、仲間とは常に肆番隊と同義であった。
だが。今は――違う。
そうではなくなっていた。
(アタシだって御頭に言われたら……従ってたはずだ)
その思いを自覚した途端、とんとん拍子に理解が進んだ。
黙って俯くルリカ。その横顔を見ているだけで思いが伝わる。
別にルリカとてここを去りたい訳ではない。
でも、逆らえぬのだ。
きっとアレが――ランカの下が、彼女の場所なのだから。
ならばもう、どうしようもなかろう。
(だから……仕方がねーことなんだ)
ヒミコはそう自分に言い聞かせた。




