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同日 深夜
/結界封印都市ヒモロギ 車道
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いつ以来だろう。ランカが運転する車に乗せて貰ったのは。
多分……いや、間違いない。尋常小学校を卒業して以来のことだ。
普段はお抱えの運転手に任せっきりの母であるが、流石にヒモロギへ入るにあたってはそうもいかなかったらしい。
だからこうして自ら運転してきたのだ。
――昔のように。
「………。………………。………………………。」
ルリカの青い瞳が通り過ぎゆくヒモロギの夜景を無意識に追う。
現存する四つの結界柱。いつもならそれら目指して鬼の群れがわらわらと侵攻してくるが、今回に限っては沈黙を保っている。
副司令の推測では〝無駄な損失を避けるためでは?〟とのことだった。
そうかもしれない。
今もなお浸食を広げる第五の禍ツ忌ノ鬼。己と大地以外のすべてを溶かすあの粘液の前では、きっと敵味方の区別などつかぬのだろう。
見方を変えれば、鬼ですら――あの鬼ですら、仲間に対し相応の態度を示している、という事実に他ならない。
それに引き替え、自分は――
(逃げた……逃げ出したんだ……仲間を見捨てて……)
言い逃れの余地もない。
母に言われるがままに荷物をまとめ、車に乗り込み、唯々諾々と従っている。
楽な方を、選んでいる――。
「……不服ですか?」とその時、ランカが不意に語りかけてきた。「それとも混乱でしょうか。鈴文では検閲のせいでろくに事情を説明できませんでしたからね」
「母様には……何か、理由があるのですか」
いつからだろう。母娘にもかかわらず、こうしてよそよそしい会話しかできなくなってしまったのは。
この人を〝母様〟と呼ぶようになったのは。
「ええ、あります」ランカが黒眼鏡をくいっと持ち上げた。「ですがここではまだ話せません」
「……? 何故ですか」
「どこに〝目〟や〝耳〟があるかわかりませんからね。家に帰ったらにしましょう」
「………………………。」
「それでいいですね、ルリカ………………ルリカ?」
その声に応えることはできなかった。




