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「……で?」作戦会議室が重苦しい沈黙に包まれる中、ヒミコが唐突に言った。「アタシはどうすりゃいんだ」
こんな時でもまるで戦意の衰えぬヒミコにルリカは内心で舌を巻く。
「まだ決まった訳ではないのだけれど……」ミヅキがヒミコの方を見て続ける。「まずはあなたに訊きたいことがあるの」
「なんだよ」
「〝天ツ玉垣〟で、どれくらいあの〝粘液〟を防げるかしら?」
〝天ツ玉垣〟。この世の如何なる摂理をも隔てる壁だ。
なるほど。確かにアレならば粘液に溶かされることもあるまい。ルリカはそう得心した。
「防ぐだけならどうとでもなると思うぜ」
「いいわね、頼もしいわ。では次の質問よ。玉垣を発動させつつ……あの粘液の中を進むことは可能かしら?」
「玉垣を整形してってことか」
「ええ。この間の時みたいに」
この間。第四の禍ツ忌ノ鬼のことだ。
あの時〈アマテラス〉は〝天ツ玉垣〟を展開して瘴気に満ちた黄泉比良坂内に潜入したと聞く。
「それも多分……できる、だろうな。かなりキツイし、時間も限られるだろーが」
「なるほど……」ここでミヅキは少々考え込んだ。
「けどよぉ、そのまま鬼と戦うってぇのは無理な話だぜ」
「……やっぱりそう?」
「ああ。この間より押さえ込むのが厄介だからな」
おそらくソレは気体と液体の違いのためだろう、とルリカは推測した。
重さがほとんど無に等しい瘴気に比べ、あの粘液は重く圧し掛かってくる。
その中を玉垣で掻き分け進むとなると、それだけで手一杯になりそうだ。
「なら神越、」ここでシマメが口を開いた。「こういうのはできるか? まずは玉垣で粘液を防ぎつつ進む。それである程度まで近づけたら、再度玉垣を整形し、あの鬼を――一時的でいい――粘液から切り離すんだ」
「玉垣で本体を剥き出しにしろってか?」
「ああ、そうなるな」
「無理難題ばっかをポンポンと出してくれるねぇ……」
これはさらに難しい注文だった。〈アマテラス〉のみならず、禍ツ忌ノ鬼もまた〝天ツ玉垣〟を有する。故に両者が接近すると、互いの玉垣が中和するのだ。その中で自身の側だけの玉垣を維持するには、一層高い水準での整形制御が求められる。
だがヒミコは、
「ま、でもできるよ。できると思う。」やれやれとばかりに肩を竦めた。「玉垣の整形にだけ全霊力を集中させりゃあいけるはずさ……もっとも、アタシは一歩も動けなくなるだろーがね」
「ならこれで打つ手は決まったな」ルリカがポンと手を打った。「まずは神越が粘液の中を進み、本体を露出させる。そこを私が遠距離から狙撃すればいい」
「んー、そうだなぁ……それがいいんじゃねーか?」
「そうね……」「うむ」
室内にいくらかの安堵が広がる。
ヒミコに加え、ミヅキとシマメも肯定的にコクコクと頷いていた。
――だが。
横から唐突に割り込んできた次の一言で台無しになる。
「……ルリカ、それは許しませんよ」
「え」
「あなたは私と共にここを発つのですから」
それはこれまで沈黙を保っていた――凛堂ランカの言葉であった。




