表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第弐話 そうやって、生きていく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/226

08

御頭(おかしら)⁉」

 

 巫女頭(みこがしら)のヨウコである。

 

 ヨウコは神楽鈴(かぐらすず)を片手に鬼へ攻撃しつつ、もう片方でヒミコを抱え敵陣を進んだ。

 

「御頭! コハク姉が、メノウ姉が!」

 

「……ああ、わかってる」ヨウコは低い声で()げた。「みんなやられた。生きてるのはアンタとアタイだけだ」

 

「アイツら! 許さない!」ヒミコは目を見開き(わめ)く。「絶対に! 絶対にだ!」

 

「……そうだな。許すんじゃあない。それでいい」

 

「放してくれ御頭! アタシも戦うよ! みんなの仇を取るんだ!」

 

「……今は逃げんのが先だ。山が崩落しかかってる」

 

「逃げる⁉」ヒミコは信じられないとばかりに口泡を飛ばす。「なに言ってんだよ御頭! みんなが! あんな風に殺されて! ……悔しくないのかよ⁉ 哀しくないのかよォ、御頭はァー⁉」

 

「――悔しくない訳ないだろっ‼」ヨウコが歯を剥き出しにして吠えた。「アタイが何年アイツらと一緒にいたと思ってんだ……! コハクとメノウに至っちゃ年端(としは)もいかない頃からアンタと一緒に育ててきたんだぞ……⁉」それは心の奥底からの叫び。「そのアイツらを殺されて! アタイが! そうでないと! アンタはこれっぽちでも思ってんのかい、ええ⁉」

 

「御頭……っ」

 

 この時になってようやくヒミコは気づく。

 

 ヨウコの唇。真っ赤だ。肉が千切れ血がポタポタと(したた)っている。

 

「ごめん……ごめん、なさい……御頭」

 

「……わかればいい。今は生きることだけを考えろ。じゃないと仇もなにもあったもんじゃない」ヨウコはヒミコを見て、ほんの少しだけ優しげに微笑む。「アンタは腕も立つ腕し素質も抜群だが、キレやすいのだけが玉に(きず)だ。もっと精進すんだね」

 

「うん……」

 

「よし、じゃあここからは二人がかりだ。切り抜けるよ」

 

 ヨウコとヒミコは最初に降りた竪抗(たてこう)を目指した。

 

 あそこには旧式だが昇降機(エレヴェイタ)がある。

 

 それに乗っての脱出が目的だ。

 

「――御頭、あぶない!」

 

 突如、支坑から大型鬼が飛び出しヨウコを襲撃する。

 

 まずい。ヒミコの位置からでは援護が間に合わない。

 

 だが、

 

「へえ……」

 

 ヨウコは余裕の笑みさえ浮かべていた。

 

 彼女がひと睨みした途端、大型鬼は硬直し、それどころか次の瞬間には()()()()()()()()()

 

「コイツら、目はないくせに()くみたいだよ。アタイの()()が」

 

 ヨウコは山吹(やまぶき)色の〝眼〟で瞬き(ウィンク)をした。

 

「まったく……ヒヤッとさせて」ヒミコはホッと肩を撫でおろす。

 

呪眼(ジュガン)〟。

 

 己の目を見せることで相手の肉体を意のままに操る巫術だ。

 

 発現には数世代に渡っての特殊継承が必要なため、肆番隊はおろか帝國・民間の全巫女を探しても使い手は少ない。

 

「よし、これならいけるね」

 

 実際、形勢はかなり良くなった。

 

 ヨウコとヒミコの巫術で小型鬼を打ち払い、大型鬼は呪眼で操る。

 

 そうして敵陣を切り進む内に、二人はとうとう昇降機のある広場まで辿り着いた。

 

「御頭! アイツらまだここまで来てないよ!」

 

「先に乗りな、ヒミコ!」

 

「うん!」

 

 ここまでくれば地上は目と鼻の先だ。脱出できる。

 

 ――そう思った時、だった。


 空間を。

 

 締め潰したような音。

 

 そんな音が聞こえた。

 

 ヒミコは。間髪入れずに振り向く。

 

 そこには、

 

「御頭ァァアアアアアァァァアアアアァァッ‼」

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 鬼だ。またあの鬼だ。

 

 地面から現れ出た巨大な顔。

 

 今まさにこの瞬間。額から三本の角を()やし、メキメキと音を立て伸ばしている。

 

 先のとは別の個体だ。

 

 コイツらは、()()()()

 

「ヒ、ミコ……!」鬼の口に囚われたヨウコが息も()()えに言う。「なに、してる……!」まるで生気を吸い取られているかのようだ。「早く、逃げ、ろ……っ!」

 

「そんな……!」

 

「アタ、イは……もう、ダメだ……! わかるんだ、よ……それが……」

 

「やだ……イヤだよ、御頭……!」

 

 ヒミコは。

 

 五年前。不幸な事故で両親と姉を亡くしている。

 

 孤児になった自分を引き取り、育ててくれたのがヨウコだ。

 

 そのヨウコを、

 

「おいてけないよ……!」ヒミコはとうとう涙交じりで悲痛な声を漏らす。「それくらいなら……アタシもここで死ぬ! みんなと一緒に、ここで死ぬ!」

 

「まったく……」

 

 意外にもヨウコはそれを許すかのように、力なく笑った。

 

「馬鹿な……子だね……アンタ、は……」

 

「御頭……!」

 

「昔っから……アンタはそうだ……一度……言いだしたら、聞かなくって、さ……」

 

「しょうがないだろ……! そういう風に育てられたんだから……!」

 

「は、それもそうか……。ほら、こっちにおいで……」

 

「うん……!」

 

 ヒミコは涙ぐんでヨウコを見た。

 

 山吹色の――――――――――――ヨウコの〝眼〟を。

 

「⁉」

 

 気づいた時にはもう遅かった。

 

()()()! ()()()()! ()()()()()()()()()()()()()!」

 

 動けない――いや、違う。そうではない。

 

 自分の身体が、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 昇降機の方へ。

 

 そして中へ入り、操作盤に触れた。

 

 途端、まるで檻のような(かご)がゆっくりと上へ昇ってゆく。

 

「ふふふ……アタイの最後の……ありったけの力を込めた、呪眼だ……。破れやしないよ……」

 

「やだ! こんなのやだよォーッ!」

 

 ヒミコが昇降機で上に行くにつれ、取り残されたヨウコは下へ遠ざかる。

 

 声が枯れるほどに叫んでも、届かぬ下へ。

 

 やがて。

 

 ヒミコの脱出を見届けたヨウコは、遠い目をして呟いた。

 

「ゴメンねヒミコ……。アンタの           ……」

 

 だがその言葉は誰にも届かない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ