07
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同日 日没後
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部
月魅ノ塔 最上階 神託ノ間
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西の山へと日が沈み、東の空から月が昇る。
それに合わせ、ハヅキは少しずつ目を開き、紫の瞳を月光へと向けた。
そのハヅキに、
「――以上が〈アマテラス〉の報告となります」
シマメが顔を伏せたまま告げた。
室内には他に誰もいない。二人がこれまでに幾度となく繰り返した密談の最中である。
「……つまりこういうことですか」ハヅキが淡々とした声で述べた。「技術部は言うに及ばず、あなたたちの方でも何もわからなかった、と」
〝あなたたち〟とはシマメが指揮を取る〝影〟のことを指す。
〝影〟には実動部隊に加え、地下の拠点――他の職員には存在さえ知られていない――で研究開発を担当する人員も存在していた。
言うまでもなくその者たちの研究対象は秘中の秘であり、長年に渡り積み重ねた知見は、技術部が有するソレとは雲泥の差だ。
しかし、その〝影〟を以てしても、
「恐れながら……〝月読ノ巫女〟さまの仰る通りです」
先の戦いで見せた〈アマテラス〉の覚醒。
その全容は掴み切れなかったのである。
「そうですか……」
ほんの少し、目を細めるハヅキ。見ようによっては若干の落胆か――はたまた猜疑の念を示したかのようだ。
それもそのはず。
アレだけは、彼女の計画にない出来事であった。
「ことによると……」ハヅキは昇り来る月を見詰めたまま独白のように続ける。「〝贄〟が――その残滓のようなモノがいるのかもしれませんね」
「そんな馬鹿な……!」シマメがカッと目を見開く。「あの者たちがまだ生きているということですか……⁉ 鬼の中で……⁉」
「ちがいますよ、シマメ。私が言っているのは〈アマテラス〉のことです」
「……!」
シマメは押し黙る。そちらについては直接関わっていないため多くを知らぬのだ。
何しろシマメが〝影〟に加わったのは五年前――ちょうどミヅキが帝國巫女局長に就任した頃である。
その前の出来事に関しては、記録で表面的な事実を知るのみだ。
「ですが、あなたの話にも一理あるのかもしれません」ハヅキが思い直したかのように言う。
「といいますと……?」
「〈アマテラス〉だけでなく、禍ツ忌ノ鬼の側でもまた残滓が潜んでいるのかもしれません。それが先月の余計な〝穢レ〟を吸収した際に活性化してしまった……十分にあり得ることです」
その話ならシマメにもわかった。
余計な〝穢レ〟。ソレはあの哀れな金光老人のことに他ならない。
彼の者の肉体と魂魄は今なお〝影〟の研究材料として活用されていた。
「ですが〝月読ノ巫女〟さま……そうなるといったい、我々はどう対処すればよろしいのでしょうか?」
「………。」黙考するハヅキ。だがやがて、幽かに唇の端を吊り上げた。「……かまいません」
「は?」
「これまで通りで、かまいません」
「し、しかしそれでは――!」
「いいのです。無理にそれらを取り除こうとすれば〝虚夢〟や〝無幻〟にも少なからず影響を及ぼすでしょう……。我々は今まで通り、人事を尽くして天命を待つ………………いいえ、神事を尽くして月命を待つとしましょう」
言ってハヅキは可笑しそうに肩を震わせる。
シマメはそんな風に嗤うハヅキを初めて目にした。
だがそれも束の間、
「……おや、」
不意にハヅキの動きが止まる。
「い、いかがなさいましたか〝月読ノ巫女〟さま」
「早速、月命が下りました」
「では――」
「ええ、来ます。第五の鬼が……」
黒禍ツ忌ノ鬼が。




