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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第拾参話 貫く意志

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205/226

06

 そろそろ日がだいぶ傾いてきている。

 

 執務室内を斜陽が照らし、その光が胸の辺りまで落ちてくると、ランカはおもむろに黒眼鏡(サングラス)を外した。

 

 スゴ味のある青い瞳が(あらわ)になる。

 

 そうなると、

 

(うっ……!)

 

 ミヅキはますますやり(づら)い。一段と身が(すく)む思いである。

 

 あの目。本人(いわ)く、現役時代の負傷が原因で光過敏とのことらしいが……ちっともそんな(おとろ)えを感じさせない。まるで鷹の目だ。獲物を前にして鋭く狙いを定める鷹の目。

 

「ふぅ……」ランカはゆっくりと溜息を()いた。「ミヅキ、あなたの立場もおおよそ推測できますが……そろそろ、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「うぐぅ……! そ、それは――」

 

 そうである。

 

 ()()こそが、この二週間、週末の(たび)にランカが足繁(あししげ)くヒモロギへと訪れてくる理由であった。

 

 端的に言えば彼女は、組織としてのツクヨミとその活動に()()()()()(いだ)いている。

 

「で、ですから先輩。その件はですね、本当に、色々と複雑な事情があって、もうこれ以上にお話できることは――」

 

「複雑な事情? 面白い言葉を使いますね。いったいどういった事情ですか。世間に鬼の存在をひた隠しにする事情ですか? それとも一部の者にだけは多少の事実を伝えている事情ですか? ……実に、国民を虚仮(こけ)にしていますね」

 

 この調子である。手厳しい。心底、手厳しい。

 

 ランカの言う〝一部の者〟とは、枢密院や関連省庁の重鎮、それとごく少数の貴族議員を()す。確かにそうした立場の人間には不定期の会議や報告会を通し、ヒモロギの実態――ただし、表面的な――を知る機会があった。

 

 だがランカは違う。貴族院に比べ軽視されがちな衆議院議員には、そもそもツクヨミの存在さえ知らされていないのだ。

 

 にもかかわらず、彼女は独自でおおよその事情を調べ上げ、こうしてヒモロギに単身乗り込んできたのである。

 

 ……いったいどんな(から)め手を使ったのやら。ミヅキの知る限り、相当な無茶をせねばここまで辿り着くのは不可能なはずだった。

 

「ううぅ……ううううううぅ……!」ミヅキがぐぬぬ顔で肩を震わせていると、

 

「はぁ……」ランカは溜息。またもや溜息。神経にくる、重ーい溜息だ。「まったく、昔のあなたには色々と手を焼かされたモノですが……それでも、何があっても折れぬ曲げぬの凛とした筋を感じました。ですが今のあなたはソレを失ってしまったようですね……」

 

「うぐぅ……⁉」

 

 こういう話が一番困る。

 

 昔の自分。誰彼(だれかれ)なく見下し、まるで神の如く振る舞っていた自分。

 

 そういう痛々しい過去まできっちり把握されているのは、精神衛生上で大変よろしくないモノがある。

 

「せ、先輩……! 後生(ごしょう)ですから……後生ですから、昔の話だけはどうかご勘弁を……!」

 

「結婚し、子どもを産み、人の思いを()み取れるようになったのはよいことですが、それでも〝上に立つ者〟ならば時として――」

 

 あ、ダメだこれ。終わらない。

 

 ミヅキはこれから延々と続くであろう説教に内心で〝うへぇ〟っと項垂(うなだ)れたが、しかし意外にもランカは途中でピタリと口を(つむ)いだ。

 

「……いけませんね。つい熱が入ってしまいました。これでは先週と同じです」どうやら話を本題へと戻すらしい。

 

 それはそれでまずい。「あ、先輩。お茶のおかわりいりませんか? 私、()れてきますね――」ミヅキはそそくさと立ち上がったものの、

 

「座りなさい」

 

「え、でも――」

 

「いいから。座りなさい」

 

「……はい」

 

 抵抗(むな)しく――というか最早(もはや)ほとんど(はかな)く、ミヅキはその場に押し(とど)められた。

 

「ミヅキ」青い瞳が、真っすぐにこちらを捉える。「私が知りたいのは――あなたたちの()()()()()です」

 

「………。」

 

「鬼と戦う……それはいい。それは、いいでしょう。私の得た情報の限り、確かにアレらは脅威です。その鬼と戦い、帝國を守るというのは確かに理解できます」

 

「………。………………。」

 

「ですが、あなたがたツクヨミには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があります」

 

「………。………………。………………………。」

 

「それも、お金の方に関しては途方もない額です。国が一つ二つ傾くどころか、下手をすればせっかくこれまで上手くいっていた属国の統治が崩壊しかねないほどです」

 

 ミヅキはこの時、内心の動揺を抑えつけるのに難儀した。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()? 確かにミヅキもカヤと共にヒモロギ内での不振な流れは把握していたが、よもや外でもそういった動きがあるとは知らなかった。

 

 おそらく、ヒモロギの外にいるランカだからこそ掴めた情報なのだろう。

 

「こんな想像はしたくもありませんが」ランカは続ける。「私には、まるで一種の心中行為のようにすら映ります。何か得体の知れない目的があり、それが叶った後ならば()()()()()()()()()()()()かのような――」

 

 ランカの想像は。おそらく的を()ている。ミヅキはそう思った。

 

 得体の知れぬ目的とは〝白鬼夜行(ビャッキヤコウ)〟。そしてソレさえ叶えば後はどうでもいい……いかにもあの二人(ハヅキとシマメ)が考えそうなことだ。

 

 正直、驚きを隠し切れない。これまでずっと外にいたランカがこうも真相に迫りつつあり、そして自分たちと同じ疑念を抱いているとは。

 

 ……こうなると話は変わってくる。

 

 いっそランカにも同志に加わって貰った方がいいのではないか?

 

 彼女自身の立場や能力もさることながら、何よりこうして自分たちにはない視点――外の視点からも協力を頼める。

 

 だが。と同時に、ソレはランカの身をも(あや)うくする。

 

 今だって、薄氷(はくひょう)を踏むような状況なのだ。何しろランカが初めてヒモロギへと足を踏み入れたあの日、シマメにも同時に知られてしまっている。

 

 ミヅキはシマメがハヅキに話を通すのを見越した上で〝お世話になった先輩だから〟、〝自分が絶対に説得するから〟などとして(かろ)うじて見逃して貰っている状況だ。

 

 これ以上はまずい。ましてや誰の目や耳があるとも知れぬ本部(ここ)では、話すことも話せない。

 

 最悪の場合は〝(カゲ)〟が動きランカを始末する可能性さえあり得る――。

 

「先輩……」ミヅキが息を()み、どうしたものかと言葉を選んでいると、

 

「……やはり、そうなのですね」ランカはふと得心したように頷く。

 

 そして、言った。

 

「あの人が――()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 この人は。

 

 そんなことまで知っているのか――?

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