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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ
ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 高度性能試験場
中央棟 七階 制御観察室
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スズはなんとはなしに窓から空を見上げた。
気づけば閑ノ月もあと少し。三日後には秋の終わりである悶ノ月を迎える。
だからだろうか。硝子越しの澄み渡った秋空には、早くも冬の凍てつく息吹が身を潜めている気がしてならない。
(今年もあと三ヶ月か……)
ほふぅ、と複雑な溜息が胸中から漏れ出る。
残すは悶ノ月と闇ノ月と閉ノ月……そして訪れるは終年祭だ。
当たり前といえばぐうの音も出ぬほど当たり前の話だが、年が明ければまた一つ、歳を取ってしまう。
来年でもう二六だ……。二と六を足せば八。末広がりの八である。こいつぁ春から縁起がいいや……などと意味不明な思索に耽るスズだったが、そこへ、
「悪いスズ」カヤからの呼びかけ。「制御系の霊波数分布を出してこっちに送ってくれないか?」
「あ、うん」スズは手元の端末を素早く操作し要望に応える。
「お、きたきた。ありがとね」
「いえいえ、どういたしまして」
カヤが再び描影装置との睨めっこをはじめたのを見て、スズはもう一度窓へと視線を投げかける。
どこか寒々しいほどに広い青空。その下では今、巫女を模した巨人〈ウズメ改〉が鎮座していた。その身体には無数の鉄索が接続され、様々な観測機器がずらりと立ち並ぶ。
本来は今日、佳ノ日は休日だが、〈ウズメ改〉の最終稼働試験における臨時の人員としてスズは駆り出されていた――ことになっている。
(あ……!)
だが、その真の目的は違う。
(終わったよ、カヤちゃん……!)
チラリとカヤを見遣ると、あちらも察したらしく小さく頷き返してきた。
スズの手には今、端末から外されたばかりの小さな記録媒体が握られている。カヤ以外の誰にも気取られぬよう、スズはそっとそれを懐に戻した。
(ふぅ……やな汗かいちゃった……)
一仕事を終え、内心で密かに安堵する。
〝私も二人に協力します〟
二週間前のあの言葉は嘘ではない。
だからこうして危険を冒してまでスズは行動を起こした。
行動。端的に言えばツクヨミの情報通信網内に間諜を忍ばせたことになる。
というのも、ミヅキとカヤの話では二人の権限――組織図上では頂点とその近傍に位置する者の権限――を以てしてもなお閲覧できぬ不可解な情報群が存在するらしい。組織としてのツクヨミに信を置けなくなった三人は、色々と話し合った末、そこへの潜入に解決の糸口を見出したのだった。
だが、これは口で言うほど簡単な話ではない。
情報群は巧妙に隠されているらしく、一定の周期で情報空間上での位置を変える。さらには警戒も厳重でちょっとやそっとでは歯が立たない。その上で、こちらが接続した痕跡を残したくないとくれば、それはもう、ほとんど〝神がかり的な所業〟が求められているに等しかった。
(ああ……ひさしぶりだなぁ、こんなに熱中したの……)
その〝神がかり的な所業〟を、この詮索狂もといスズはやってのけたのである。
というのも、彼女は自身の性を深く恥じており、そのためカヤを除く周囲の人間にはひた隠しにしていたが――女学生時代からその道では玄人顔負けの腕利きだ。
カヤ曰く〝もしも素性がバレてたら、絶対に技術部じゃなく情報部に配置されてたね〟とのことである。
(とりあえずこっちはこれで済んだけれど……)スズはほっと肩を撫でおろし、冷めた湯飲みに手を伸ばした。(司令の方は大丈夫かなぁ……?)
あちらはあちらで厄介な問題に巻き込まれている。
スズはまた〝ほふぅ〟っと小さく溜息を吐いた。




