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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第弐話 そうやって、生きていく

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20/148

07

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /八砦(ヤトリデ)県 琴水(キンスイ)

  貴志摩(キシマ)鉱山 最下層 第九支坑

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

(鬼、ねぇ……)

 

 そう言われてもヒミコにはまるで実感がなかった。

 

 鬼。(ツノ)()やした神話の化物(バケモノ)

 

 古くより忌み嫌われ、だからこそ時として崇拝の対象にもなり得る。

 

 ヒミコが鬼について知ってることなどそれくらいだ。

 

 いや、自分だけではない。現代に生きる者なら皆が皆、五十歩百歩の認識だろう。

 

 いきなり鬼と言われても御伽噺(おとぎばなし)程度の実在性(リアリティ)しか感じない。

 

(ま、大方それを隠れ(みの)にしてロクでもねーことやってる連中がいる、ってぇとこだろうな)

 

 御頭(おかしら)のヨウコも含め、全員が同じ見解だった。

 

 もしそうならば話は早い。

 

 ならず者どもを斬り伏せるだけだ。

 

 ――それこそ。鬼となって。

 

(こっちはなんもなし、か……)

 

 しばらくして支坑の突き当りに行き着く。

 

 最下層は坑道が分岐し、ヒミコは内の一つを探索していた。

 

(なら戻るとすっか)

 

 来た道を引き返す。最初に竪抗(たてこう)で降りてきた広場が合流地点だ。

 

(……にしても、よ)

 

 あまりに何もない。()()()()()

 

 ()番隊という特殊な部隊に身を置く関係上、ヒミコは人の気配に敏感だ。

 

 だがここには、

 

(命の匂いがしねぇ……)

 

 微塵も感じられない。

 

 人の気配どころか――人がいたという痕跡まで。

 

(なんっつーか……(やしろ)みてぇだ)

 

 不自然に整っている。

 

 本来あるべき汚れや(けが)れが根こそぎ取り払われ、眩いばかりの純潔が、不気味なほどの空白が奇妙な圧迫感を生んでいた。

 

 端的に言えば、居心地が悪い。

 

 まるで〝ここはお前のいるべき場所ではない〟そう空間から拒絶されているかのようだ。

 

(……!)

 

 その時。ふと敵意のようなものを感じた。

 

 ヒミコは構えていた御幣(ごへい)をそちらへ向ける。

 

(ってなんだ。コハク姉かよ――)

 

 ほんの一瞬の安堵。

 

 そう、コハクだ。離れているが間違いない。

 

 達磨(だるま)のような大柄な身体の上で、メノウとお(そろ)いの二つ()いの髪がゆらゆらと揺れている。

 

 ………。

 

 ………。………………。


 ………。………………。………………………。

 

 ――――――――――――――――――()()()()()()()()()()()

 

「~~っ!」

 

 ヒミコはその事実を理解したのと同時に駆け出した。

 

 だがもう間に合わない。

 

 というより。

 

 はじめから手遅れだった。

 

 何もかもが。

 

(コハク姉……っ!)

 

 ゴロリと。転げ落ちた。()()()()()()()()()

 

 コハクは首から下を喰われていたのだ。

 

 何に?

 

 わからない。

 

 見たこともない。

 

 顔。とてつもなく大きな顔。

 

 地面から()え出ている。

 

 口があった。鼻があった。

 

 でも――目がなかった。(うろ)のように(うつ)ろで仄暗(ほのぐら)い空白の眼窩(がんか)

 

 代わりにあるのは、()()()()

 

 角、角、角。

 

 ………………鬼?

 

 もしかして、アレが鬼なのか?

 

 そうかもしれない。

 

 でもそんなことはどうでもよかった。

 

 やるべきことはただ一つ――。

 

 復讐だ。

 

「ウァアアアァァアアアアアアァァッ!」

 

 よくも。

 

 よくも、よくもコハクを。

 

 自分の姉を――家族を!

 

 ヒミコは御幣を振るい、いくつもの巨大な衝撃波を飛ばす。

 

 一瞬、(かすか)かに格子状の壁のようなものが現れたが……すぐに四散した。

 

 衝撃波が鬼の顔面を切り刻む。

 

 途端、周囲に飛び散る白濁とした血液。

 

 ()いている。間違いなく()()()()()

 

 だが。

 

 結論から言えばこれは悪手だった。

 

(増えやがった――⁉)

 

 飛び散った血から新たな鬼が生まれる。

 

 一本角の小さい鬼。二本角の大きな鬼。

 

 それらが無数に。

 

(しまった……!)

 

 突然現れた鬼の群れとの戦い最中(さなか)、ヒミコは虚を突かれる。

 

 小型鬼が飛び掛かってきた。

 

 だが、

 

(⁉)

 

 鬼は(ちゅう)で串刺しにされる。

 

 何に?

 

 爪。爪だ。鋭く長く伸び、硬質化した爪。

 

「メノウ姉!」

 

 彼女の得意とする肉体操作系の巫術である。

 

 ヒミコは御幣で鬼を掻き分け、爪の来た方へと跳んだ。

 

(まずい、あれじゃあ……!)

 

 どういう訳かメノウはうつ伏せに倒れていた。

 

 ヒミコはすぐさま彼女を抱き起こそうと――――――()()

 

 ()()()()

 

 いくら小柄なメノウといえどもあり得ない。

 

 ヒミコは見る。

 

 メノウを。

 

 その下半身を。

 

 ()()

 

 空白だ。

 

 噛み千切られて――既に事切れている。

 

 ヒミコはようやく理解した。

 

 メノウは。

 

 自分のもう一人の姉は。

 

 落命の間際、最後の力を振り絞って……自分を助けてくれたのだと。

 

「……お前ら」

 

 ヒミコの中で加速度的に怒りが膨張する。

 

「お前らァァァアアアアァァアアアッ‼」

 

 次の瞬間、首根っこを掴まれた。

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