表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第壱話 解き放たれた少女
2/56

02

 少女。名を神越(カミコシ)ヒミコという。

 

 その足元には二つの死体が転がっていた。

 

「………。………………。………………………。」

 

 ヒミコは淡々と死体から巫女装束を剥ぎ取る。一つで血を拭い、もう一つを身に纏った。

 

 血を吸って光沢と重みを()びた緋袴(ひばかま)を放る。ふわりと広がった袴が死体の顔を覆った。まるで死者への(とむら)いに掛けられる面布(めんふ)のようである。

 

 だが。

 

 ヒミコの思惑は違う。そうではなかった。

 

 一度、二度、三度。鉄槌(てっつい)の如く(かかと)を叩き落とす。

 

 どこへ? 死体の顔目掛けてだ。

 

 緋ノ巫女は血中の霊素を消費し霊気とすることで常人離れした身体能力を発揮する。

 

 そんな力で執拗に踏みつければどうなるかは自明のこと。

 

 あっという間に頭骨(ずこつ)が砕け、緋袴の重みがいや増した。

 

 続けざまにもう一つの死体へ同様の処置。

 

 ヒミコの顔に浮かぶのは勝利の喜びではない。報復の愉悦でもない。死者への(さげす)みでもない。

 

 純粋な()()()だった。

 

 すべきことをすべき時にする。歯車のような正確で冷たい意思だけがそこにあった。

 

 身元の確認が困難なほどに死体が損壊されると、ヒミコはすぐさま扉の方へ。(かす)かに開けて室外の様子を探る。光に慣れぬ目がほんの少し不調を訴えた。見回りはいない。

 

 ――そこからのヒミコの行動は早かった。

 

 手あたり次第、次から次へと囚人を開放する。仲間意識からの行動ではない。単に己の脱獄の迷彩(カムフラージュ)とするためだ。

 

 同様の理由であちこちに放火し、可能な限り電気設備を破壊する。

 

 瞬く間に尾沼崎(オヌマサキ)特異指定監獄所を混沌(ケイオス)が支配した。

 

 ヒミコは時に集団脱走を呼びかけ、時に闇に紛れ職員を暗殺し、やがて監獄の外に出た。

 

(……変わらねーな、三年前と)

 

 夜空には白き月が昇っていた。

 

 月。月の光。霊素を生む緋ノ巫女の力の源泉とも言われている。

 

 いつ以来だろう。鉄格子越しではない月を見るのは。

 

 覚えてない。やはり三年前のことかもしれない。

 

 ヒミコにとって、時間はもはや意味を()していなかった。

 

「――良い夜ね、無謀な巫女さん」

 

 その時。

 

 突如として背後を取られた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ