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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第弐話 そうやって、生きていく

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18/148

05

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

(三日後)

 (トウ)ノ月、(ニン)ノ週、(シュウ)ノ日 夜

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部

  月魅(ツキミ)ノ塔 最上階 神託ノ間

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 ミヅキは精緻な造りの顔を曇らせていた。

 

 いつものことである。

 

 ()()()()(おとず)れる時は――。

 

「……失礼します」

 

 扉を開け、神託ノ間へと入る。

 

 周囲は球状の天井を含め全面が硝子(ガラス)張りだ。夜のヒモロギがよく見渡せる。

 

 中心にあるのはかつての貴志摩(キシマ)鉱山の跡地、黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)。そこを取り囲むように観測・防衛拠点が配置され、それより外側では宿舎や生活施設の灯かりが(きら)めく。外周付近には計九つの結界柱が等間隔に(そび)え立ち、〝中〟と〝外〟を(へだ)てる障壁が伸びる。

 

 幾重もの結界で(いろど)られた夜空。その境界線を越え、首が痛くなるほどに高く天を(あお)げば、やがて白き月が姿を現す。

 

 ()()は月を見ていた。

 

「〝月読(ツクヨミ)ノ巫女〟さま」ミヅキが(うやうや)しく(ひざまづ)く。「先日の(マガ)()(オニ)との戦闘の最終報告書を届けに参りました」だがその紫の瞳はどこか冷たい。

 

 というより――不自然によそよそしく振る舞っている。

 

「……読んで頂戴」

 

 少女が繊細(かぼそ)い声で言った。

 

 少女。奇妙な少女である。傍目(はため)には一〇歳に届くか否かの幼さだ。

 

 だが一心不乱に月だけを見詰め続ける紫の瞳は超然としており、そこだけを取ると三十路(みそじ)を控えたミヅキより一回りも二回りも年嵩(としかさ)に映る。

 

 ――()()()

 

 そう、二人は同じ色の目をしていた。

 

「……では報告します」

 

 少女の指示に従い、ミヅキは淡々と報告書を読み上げた。

 

 ――逆らえるはずがない。

 

 帝國巫女局長を辞して以降、ミヅキが統括司令官として籍を置く〝ツクヨミ〟は、組織図上では枢密(すうみつ)院直属という(てい)だ。

 

 だがその実態は違う。枢密院があるからツクヨミが結成されたのではなく、()()()()()()()()()()()枢密院が――そもそもは大緋(ダイヒ)帝國が生まれたのだ。

 

 ツクヨミは建国以前の遥か昔からこの地を、そして今では世界を影から牛耳(ぎゅうじ)る組織である。

 

 ミヅキの眼前にいる少女――〝月読ノ巫女〟は言うなればツクヨミそのもの。

 

 本来の〝ツクヨミ〟とは代々御役目(おやくめ)(にな)ってきた()()()()を指す言葉なのである。

 

「……報告は以上です」

 

 相応の時間をかけ、ミヅキは報告書を読み終えた。

 

 戦闘被害、結界柱の修復状況等、すべてである。

 

 無論、〈アマテラス〉の()()()()()()()()も――。


 だが、

 

「ご苦労様」

 

 少女の言葉はそれだけだった。

 

「~~っ!」

 

 瞬間、ミヅキは歯噛みする。

 

 わかっている。

 

 理性では、わかっている。

 

 もうこの人に何を言っても無駄なのだと。

 

 それでも。

 

 それでも、感情は収まりがつかず暴発した。

 

(おそ)れ多くも、月読ノ巫女さま――」

 

「ミヅキ。まだなにか?」

 

「私には皆目見当もつきません」ミヅキは躊躇(ためら)いを隠し切れずに(おもて)を上げる。「〈アマテラス〉とはいったいなんなのですか」そして少女を見た。「アレは本当に……人の手で(ぎょ)せるモノなのですかっ」

 

 自分にはとてもそうは思えない――ミヅキの目ははっきりと()げていた。

 

 しかし、少女はそれを見ようともしない。

 

「案ずることはありません。霊式駆動人形〈アマテラス〉。鬼を討つ機械仕掛けの巫女。それを繰る(けが)れた巫女……すべては月神(ツキガミ)様の〝お()げ〟通りです」

 

 ()()()。またそれだ。

 

 そうやって、何一つ答えようとしない。

 

 ……はじめから、わかりきっていたことだった。

 

「っ、失礼します」

 

 少女に――そして少女に何かを期待した自分自身に嫌気がさし、ミヅキは退座の意を伝える。

 

 それでも少女は一瞥(いちべつ)もくれず、依然として月だけを見詰め続けていた。

 

(もう……二〇年が()つのね。この人が私のことを見てくれなくなってから)

 

 少女の名は夜代(ヤシロ)ハヅキ。

 

 ミヅキの実の母親だった。

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