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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第弐話 そうやって、生きていく

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04

 飛び散る白濁とした鬼の血。

 

 ヒミコは、〈アマテラス〉は、返す手刀で残るもう一本の腕を落としにかかる。

 

 だが、

 

(なんだ――⁉)

 

 嫌な気配。己の直感を信じ後方へ跳ぶ。

 

 その軌跡を追うかのように()()()()が勢いよく(くう)()んだ。

 

(再生……んなこともできんのかよ)

 

 紙一重で(かわ)したヒミコはその正体を見極める。

 

 左腕。〈アマテラス〉の手刀で斬り落とされたはずの左腕。

 

 先が大蛇のような巨椀だったとしたら、今は〝龍蛇(りょうじゃ)〟だ。

 

 龍蛇。水と土を(つかさど)る神話の蛇。

 

 前よりもさらに大きく、長く、太い。手は裂けんばかりに大きな(あぎと)となっている。

 

 そんなモノが新たに生えていた。

 

(喰ってやがる……自分で、自分の手を)

 

〈アマテラス〉を仕留め損なった龍蛇は先に斬り落とされた左腕を(むさぼ)り喰らう。

 

(ああそうか………………()()()()()()()()()()

 

 何故か。

 

 ヒミコはそう直感した。

 

 自分が自分でないような違和感。

 

 そんな違和感に少しずつ心と身体が浸食されていく――。

 

 けれども彼女はそれに気づかない。

 

(ツノ)を、落とす……そうか、それでいいんだ)

 

〈アマテラス〉の頭部、放霊索(ホウレイサク)の束――まるで黒髪を(かんざし)()ったかのようだ――が揺れた。

 

 次の瞬間、接近戦(インファイティング)

 

 龍蛇に喰らいつかれるより早く、相手の(ふところ)に飛び込む。

 

 一拍置いてから巨大な(あぎと)が襲い掛かってきた。

 

 だがもう遅い。

 

(……とった)

 

〈アマテラス〉は両手で三本角の両脇を握り込んでいる。

 

 直後、力任せにへし折った。

 

(とった、とった、とったァ――)

 

 胸を燃え上がらせるような高揚感。

 

 抑えつけようのない()()()()

 

「アハ」

 

 今のヒミコにとって、それだけがすべてだった。

 

「アハハハハ」

 

 それさえあれば、あとは何もいらなかった。

 

「アハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ――ッ!」

 

 だから、かもしれない。

 

 この時、彼女は決定的な過ち(ミス)を犯していた。

 

(な――)

 

 角は鬼の力の源泉。それは間違いなく正しい。

 

 だが。

 

 (マガ)()(オニ)の場合、角にはもう一つ役割がある。

 

制限装置(リミッタ)〟だ。具象化した自己の存在をこの世に定着させるための。

 

〈アマテラス〉が折った二本の角はまさしくそれに他ならない。

 

(やばい――!)

 

 戦略的にはこれで此度(こたび)の戦いは人類側が制したも同然だ。

 

 制限装置(リミッタ)を失った禍ツ忌ノ鬼は数分も()たぬ内に内部から自己崩壊する。

 

 ただしそれまでの間――(かせ)から解き放たれた本来の力で破壊の限りを尽くすが。

 

(角、が……⁉)

 

 禍ツ忌ノ鬼の額に残った一本の角が煌々(こうこう)と光を放ち、膨張していく。

 

 ヒミコは即座に距離を取ろうとするも――不覚。それより早く龍蛇に巻きつかれた。

 

 そのまま凄まじい力で締めつけられる。

 

「ぐぅ……っ⁉」

 

 骨格が悲鳴を上げた。

 

 右腕が潰れされる。

 

 蛇身(じゃしん)が腹を抜け、胸を登り、首の上まで圧迫してくる。

 

 それらは〈アマテラス〉の痛みであり、ヒミコの痛みでもあった。

 

「が、は」

 

 ヒミコの意識が朦朧(もうろう)となる。

 

 その時――、

 

〈アマテラス〉の()()がひび割れた。

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