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同日 同刻
/結界封印都市ヒモロギ 旧第七結界柱方面
仮設塹壕 其ノ一(主要目標〝禍ツ忌ノ鬼〟近辺)
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ゆらり、ゆらりと揺らめく霊水に満ちた機胎の中。
ヒミコは目を閉じていた。
それでも脳裏には明晰夢が如くハッキリと絵が結ばれている。
仮面に這入った切れ込みの奥、〈アマテラス〉の瞳が捉えている光景だ。
土砂降りの雨。ズブ濡れの巫女装束。
すぐ近くにいる禍ツ忌ノ鬼。遠く離れた〝石環〟。
自分と同様に、ユイナの機体がその周辺の塹壕に身を隠しているはずである。
ユイナ――。
その名を意識した途端、どうしても冷静でいられない己に気づく。
『……ヒミコ』少しの躊躇いを含んだハクの声。『おこってるの?』
(……さあな)
わからない。
自分でも、わからない。
どうしてここまで心が掻き乱されるかが――。
『……ふーん。そうなんだ。ふーん………………ふぅぅぅうん?』
(なんでてめーがキレてんだよ……)
『〝さあな〟』
(マネすんじゃねえ)
ヒミコが己の胸中を計りかねている間にも、時は刻一刻と過ぎていく。
そして。
『〝局所封鎖結界〟消失しました――!』
とうとう、はじまった。
『〈サグメ〉、〝雷惑符〟を展開します』
ユイナからの通信。
直後、ヒミコの塹壕から遠く離れた位置――今は無き第七結界柱の付近だ――に〈アマテラス〉の幻像が出現した。
あれが〝雷惑符〟。聞いたところによると霊気で光や熱、音を高精度に制御しているらしい。
確かに――よくできている。
アレならよほど近づかぬ限り偽物と気づけない。
ましてやこの大雨の中だ。見破るのは困難だろう。
驚くべきことにユイナの造った幻像は雨滴が体表を伝うところまで再現していた。
『〈サグメ〉、続けて〝雷密符〟を展開し塹壕を出ます』
〝雷密符〟。
原理は先の〝雷惑符〟とほぼ同様だ。ただしその効能を逆用し、気配の遮断に使っている。
〈アマテラス〉の幻像があれほどよくできているのだ。やはり、水準としては非常に高い隠密性を実現している。少なくともヒミコには〈サグメ〉の現在位置を掴めない。三日前のあの雨の日のように。
だが――何故だろう。
どうしても、ヒミコにはアレが鬼にも通ずるとは思えない。
言葉では言い表せぬ違和感を覚えていた。
『以後〈サグメ〉は幻像の維持範囲内に留まります。幻像を動かしますか?』
『……ええ』ミヅキの声。『敵の攻撃を』重い声。『誘導して』
『わかりました』
次の瞬間、スズからの通信が入る。
『副次目標に動きあり!』
副次目標。石環のことだ。
この三日間、何度かその破壊を試みたが――すぐに復活してしまうらしい。
やはり倒すべきは本体、禍ツ忌ノ鬼なのだ。
『主要目標も呼応! 魄子密度が爆発的に高まっています!』
禍ツ忌ノ鬼。
その球状の身体が真っ二つに割れ、中から巨大な〝龍蛇〟が姿を現す。
神話の蛇が天を食まんばかりに広げた顎の先は――やはり石環。
まだヒミコには気づいてないらしい。
これならば討てる。
第一射の隙を突き、鬼の〝三ツ角〟すべてを残さず斬り落とすのだ。
それで敵を屠れる。
――――――だが。
その時、ユイナは。
(っ⁉)
ほんの一瞬、〈アマテラス〉の瞳が禍ツ忌ノ鬼から石環へと戻った。
異様な動き。
動いている。そう、動いている。
宙に浮かぶ石環が。
ぐるぐると、ぐるぐると、まるで狩人が獲物を狙い定めるかのように。
獲物……?
いや、幻像の〈アマテラス〉の方ではない。
そもそも幻像は今や動いていない。その場に立ち尽くしていた。
にもかかわらずぐるぐると動き続ける石環。
明らかに標的は別だ。
ユイナを狙っている。
けれど、どうやって?
ヒミコの目では相も変わらず〈サグメ〉の姿を捉えられない――。
(っ、しまった!)
その時。
ヒミコはようやく理解した。
先ほどからずっと続いていた違和感。
その正体に。
(ハクッ!)
『え。なに』
(お前には見えてんだな⁉)
『みえってるって。なにが?』
(あの金髪女! あの女の乗ってる人形だよ!)
『ああ、アレ? うん、みえてるよ』
あのキイロのでしょ――。




