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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第九話 幻想の花/背負った命

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╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 夜

 /結界封印都市ヒモロギ 旧第七結界柱方面

  仮設塹壕(ざんごう) ()ノ二(副次目標〝石環(セキカン)〟周辺)

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

『〝局所封鎖結界〟の消失まであと三分です!』

 

 ()ノ国。

 

 自分の生まれ育った土地。

 

 もう二度と――戻ることはないと思っていた土地。

 

 戻ってきた。

 

 戻ってきて、しまった。

 

 この国にいい思い出など何一つとしてない。

 

 だからこそ、ここに戻るしかなかった。

 

 忘れるために。

 

 ルリカのために、ルリカのことを、忘れるために。

 

 ――忘れられなかった。

 

 忘れるには、あまりにも心がルリカで満ちていた。

 

 自分の生涯にも匹敵する大事なモノ。

 

 初めて、自分に生きる喜びを与えてくれた人。

 

 でも。

 

 愛してはいけない人。

 

 自分で自分の心を削り取るような日々だった。

 

 削り取る。

 

 実際、確かにそうだった。

 

 削れば削るほど、空白が満ちてゆく。

 

 充足の代わりに、空白が()めてゆく。

 

 気づけばユイナは――絵が描けなくなっていた。

 

 描きたいのに。

 

 今の自分にはもう、それくらいしか生きる意味がないのに。

 

 それでも、描けなかった。

 

 空白の中にはもう、何も残っていなかった。

 

『〝局所封鎖結界〟消失まであと二分!』

 

 とうとう大緋帝國に戻る時がやってきた。

 

 この半年間、ずっと一緒だった〈サグメ〉(この子)と共に。

 

 自分はこの子が工廠(こうしょう)産声(うぶごえ)を上げた瞬間を目にしている。

 

 ……胸が苦しくなる光景だった。

 

 やはり、自分の想像は間違っていなかったのである。

 

 人形のこの子でさえ、生まれた時に開発者(親たち)から最初に贈られていたのは〝愛情〟だった。

 

 自分はこうではなかったんだ、とする思いがあらためて首に巻きついてくるのを感じた。

 

 ただ、それでも。

 

 この子のことは嫌いではなかった。

 

 理由はわからない。不思議である。

 

 人形のこの子の空白に座ることで、自分の心の空白が同化しているのかもしれない。

 

 この国に戻り、ルリカと再び顔を合わせる勇気を持てたのはこの子のおかげだ。

 

 ルリカ。

 

 あゝ、ルリカ。

 

 ルリカ。ルリカ。ルリカ。ルリカ。ルリカ。ルリカ。

 

 哀しかった。

 

 あれほど会いたいと想っていたのに、あれほど自分のすべてであったのに。

 

 心はもう、動かなかった。

 

 そこにはもう、何もなかった。

 

 かつて愛した(ヒト)である――その事実だけが見えない(しかばね)として横たわっていた。

 

 それでも目は自然とルリカを追ってしまう。

 

 無意識の内にルリカの姿を探してしまう。

 

 まるで幻影に幻想を重ねるかのように。

 

 けれどそこには――あの女(ヒミコ)がいた。

 

 ルリカの、隣に。

 

『〝局所封鎖結界〟の消失まで一分を切りました!』

 

 一目見て、()()()()だと直感した。

 

 ふとした仕草や雰囲気からわかる。わかって、しまう。

 

 ()()()()()()()()()()だと。

 

 それがどうして。ルリカと一緒に?

 

 ルリカの、隣に?

 

 それもあんなに――楽しそうに。

 

 ……許せなかった。

 

 大切なモノを汚された気分だった。

 

 ヒミコに嫉妬したし、ルリカには失望した。

 

 ならなんで――自分じゃダメだったんだとすら思った。

 

 だからヒミコを憎んだ。恨んだ。殺意すら抱いた。

 

 けれど――――――()()()()()()()()()()()

 

「ふふふ……」

 

 仄暗(ほのぐら)く閉ざされた〈サグメ〉の操者席(コックピット)の中、ユイナはほんの一時(ひととき)金糸雀(カナリア)色の目を(つむ)る。

 

 今もありありと目蓋(まぶた)の裏に浮かび上がる光景。

 

 それはヒミコが身を(てい)して自分を守ってくれたあの瞬間に他ならない。

 

()()()()()()……)ユイナの指が(かす)かに震える。(守ってくれた、守ってくれた、守ってくれた……!)閉じられた目蓋の端からは、涙が。(()()()()()()()()……!)

 

 哀しいのではない。

 

 逆だ。

 

 うれしいのだ。

 

 生まれた時から憎悪に晒され続け、やがては無関心に捨てられたユイナにとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 誰からも愛されない人間は、誰からも守られない。

 

 それがユイナの中に根づく(ゆが)んだ真実であった。

 

 自分を守ってくれたヒミコ……。

 

 そのヒミコのためならば、死ねる。

 

『〝局所封鎖結界〟消失しました――!』

 

 スズの声で目を開ける。

 

 ユイナは既に行動に移っていた。

 

「〈サグメ〉、〝雷惑符(ライワクフ)〟を展開します」

 

 ――こわくない。

 

 死ぬのはまったくこわくない。

 

 だって。

 

 心が――もう満たされることはないと思っていた心が、また満たされた。

 

 また、絵を描くことができた。

 

 こんなにもうれしいことはない。

 

 こんな素敵な思いと共に逝けるなら――自分はきっと、笑って死ねる。

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